松村早希子の「美女を浴びたい」
ハコイリ♡ムスメが描く、“ハードコアかわいい”世界 懐かしくも新しい少女たちの夢
幼い頃に読んだおとぎ話に出てくるお姫様は、膨らんだスカートにフリルがいっぱいで、蝶々の羽根のように細かいレースやキラキラした刺繍が施されたドレスを着ていました。色々なドレスを夢想しては、絵に描くことが大好きでした。
けれど現実の自分は、女の子という生き物のはずなのに、どうしても花柄やフリルやレースが似合わない。大人になってからは、多少似合わなくても好きな物は好きだと押し通す図々しさと、ある種の諦めを身につけたけれど、幼い時にそれほど器用に考えられる筈もありません。遠い親戚が「女の子だから、似合うでしょう」と送ってくるブラウスの繊細な刺繍が大好きなのに、鏡の前で自分に合わせてみた時のガッカリ感、今でも忘れられません。一度も着なかったけれど、箪笥の奥にしまってたまに取り出し眺めていたブラウス。
いま、目の前で歌い踊る女の子たちは、あの日私が憧れたお姫様そのもの。目が大きく手足が驚くほど長い少女漫画のヒロインそのもの。けれど、本の中でも映画の銀幕でもなく、目の前の同じ世界に生きているのです。
2018年7月29日、有楽町オルタナティブシアターにて開催された、ハコイリ♡ムスメ(以下ハコムス)の1stコンサート昼夜二公演を鑑賞しました。
昼公演「青春の音符たち」は、これまでハコムスが歌ってきた100曲を越えるカバー曲の中から厳選された15曲。
大きなシャンデリアのある劇場で、特別感溢れる初めてのコンサート。
ステージ上には、一見簡素だけれど、そのシンプルさ故に宮殿の柱にも天国の雲にも見えるバレエの舞台セットのような装飾。
舞台に現れたメンバーは、ウエディングドレスを思わせる真っ白な衣装。ハコムスはいつも素敵な衣装ばかりだけれど、この日は特に凝っていて、お花のレースやチュールやラインストーンがふんだんに施されたたドレスが、夢の世界に導いてくれました。
80年代や90年代のアイドルの隠れた名曲を掘り起こし、現代の女の子たちが歌って踊ることで別の魅力が吹き込まれてゆく様子は、色を塗り重ねて深みを増す油彩画のよう。
2曲目が大好きな曲「はんぶん不思議」(CoCo)で、序盤からいきなり自分の中のピークが来てしまった……と思ったのも束の間、「泣かないでエンジェル」(Qlair)では、いつも笑顔の女の子が突然見せた切ない表情にハッとさせられたり、「海へ行こう ~Love Beach Love~」(チェキッ娘)や「夏休みは終わらない」(おニャン子クラブ)などの夏の曲が続けて歌われたコーナーでは、青い空・入道雲・ビーチでの恋といった自分の人生でおよそ縁のなかった爽やかな夏、生命の危機すら感じる蒸し暑いだけの現実の夏ではなく、イメージの中のキラキラと眩しい夏が目の前に広がり、暑くて辛くてもやっぱり夏っていいなあと、夏のポイントが少し上がりました。
夜公演「私たちの宝バコ」は、全てがハコムスのオリジナル楽曲。
この日初披露のクラシカルなOVERTUREに乗せて、我妻桃実さん・阿部かれんさん・吉田万葉さんの三人がバレエを踊る、幻想的な幕開けでした。
1曲目は最新シングルの「エトワールを夢見て」。この曲で本格的にハコムスが大好きになった私は特に思い入れが強く、目の前で華麗に歌い踊る姿を観ていたら完全にトリップして涙が溢れ、この幸せにずっと浸っていたい……と泣きながら過ぎ行く時を惜しみました。バレエ衣装であっても典型的なお団子頭ではなく、ポニーテール、おさげの三つ編み等々、思い思いの髪型で、昼間の「幻想の夏」同様、“幻想のバレリーナ”が舞台に立っていました。
公演の中盤、塩野虹さんが木苺を摘みに出掛けた森で道に迷い、阿部かれんさんと我妻桃実さんが分かれ道でどちらに行ったらよいのか迷う劇中劇のような場面(劇団ハコムス)では、姿の見えない声が「自分の信じる道をいけばそこが正解よ。私はいつもあなたたちを見てる。ずっと見ているよ」と語りかけてきました。メンバーの誰でもないように思えたその声は、卒業生の門前亜里さんでした。
道は違ってもずっと見守っている先輩と後輩、迷った時に支えてくれる存在、少女漫画で描かれ続けているシスターフッドが、さり気なく表れた瞬間でした。