ハコイリ♡ムスメが描く、“ハードコアかわいい”世界 懐かしくも新しい少女たちの夢

 後半で披露された新衣装のテーマは「昭和の日本の夏」。丈の長いスカートに涼しげな色味のチェック柄や花柄、お花でいっぱいの麦藁帽子。高峰秀子さんや浅丘ルリ子さんが映画の中で着ていたような、メンバーが生まれるずっと前に流行したデザイン。中原淳一先生の絵から飛び出してきたような、きっとどの時代に生まれても「街で評判の美少女」になったであろう女の子たちがレトロなお洋服を着こなす姿に、自分の孫娘がこんなお洋服を着た美少女だったら嬉しいだろうなと、その衣装の時代性によってメンバーのお祖母さんの気持ちになってしまい、孫たちの可愛さに涙が出てきました。

 それほど音楽に詳しくない私でも、ハコムスの楽曲は全てがどこか「懐かしい」。初めて聴いた曲でもいつかどこかで聴いたような、砂糖菓子のような中毒的魅力があります。

 陸奥A子先生や池野恋先生の描く、徹底的にファンシーな世界。谷ゆき子先生や山岸凉子先生の描く、瞳の中に星を宿すバレリーナの世界。私が幼い頃、そういった非現実的な少女漫画は「ダサい」「時代遅れ」と言われ、悔しい思いもしましたが、可愛いものは可愛い、夢見ることは誰でも自由なのだと、大人になってから信じられるようになりました。

 「この時代に誰もやらない、ハコイリムスメだけの『ハードコアかわいい』」という、プロデューサーの鈴木美紗乃さんの言葉にも通じます(参考:Twitter)。

 会場で見かけた、お父さんと公演を観に来ていた小学生くらいの女の子に、幼い頃の自分を重ねてしまいました。

 今の私から見ればメンバーは娘でもおかしくないような年齢だけれど、あの 女の子にとってはきっと「憧れのお姉さん」。

 現実の世界では滅多に着られないような、レースや刺繍のドレス、鮮やかな色の花飾りを身に着け、キラキラと歌い踊る姿を一度目にしたら、絵本やアニメの中ではなく、生きて動く生身の人間で、こんなお姫様たちがいるんだ……!と、夢中になってしまうに違いありません。上品で、綺麗で、キラキラしていて、小さな女の子が憧れる存在。

 現代の女性アイドルは、音楽もコンセプトも多様化していてアイドルというだけで一括りにできないけれど、やっぱり異性(男性)の観客がとても多いです。けれど、多くの少女たち(身体の性別に関わらず、心の中に少女が棲んでいる人たち)にとっても、ハコムスはきっと安心して幻想を抱くことのできる存在。

 このコンサートに向けた「地獄の夏合宿」を乗り越え、天性の美貌に加えて歌もダンスも急成長したメンバーの皆からは、他者の幻想を背負って立つことのできる強さが感じられました。

 お祖母さんと、小さい女の子と、現在の私。過去と未来と現在が交錯した、懐かしいけど新しい、可愛いけれどハードコアな、ハコイリ♡ムスメにしか表せない世界が広がっています。

■松村早希子
1982年東京生まれ東京育ち。この世のすべての美女が大好き。
ブログにて、アイドルのライブやイベントなどの感想を絵と文で書いています。
雑誌『TRASH-UP!!』にて「東京アイドル標本箱」連載中。
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※メンバーの阿部かれんは、大学受験のため9月30日にハコイリ♡ムスメ卒業を発表。

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