村尾泰郎の新譜キュレーション
Dirty Projectors、Amen Dunes……村尾泰郎が選ぶ、メロウな歌心を持ったオルタナ作品5選
ところ変わって、3枚目は近年注目を集めるトロントのシーンから。サンドロ・ペリ、ライアン・ドライヴァーなど、様々なアーティストの作品に参加してきたキーパーソン、エリック・シュノーは新作『Slowly Paradise』で独自のスタイルにさらなる磨きをかけている。即興をベースにして、スライドギターのような独特のうねりをもったギターの音色やシンセを幾重にも重ねて生み出したアブストラクトな音響空間。特徴のあるギターサウンドは人の声のように聞こえたりもして、多重録音されたギターがざわめくようなハーモニーを生み出すなか、エリックの繊細なファルセットボイスが沁み渡っていく。ジャズ、フォーク、ソウル、現代音楽など、様々な要素を感じさせながら、そのどれでもない不思議な音楽。基本的に全曲ラブソングというのも興味深い。
そして4枚目は、ブラジルのロックシーンから。60〜70年代ロックから影響を受けながらオルタナティブな感性も持ったサンパウロのバンド、O Ternoのメンバーとしても活動する、ブラジルのシンガーソングライター、チン・ベルナルデス。彼が昨年リリースして話題を呼んだ1stソロアルバム『RecomeÇar』の日本盤がリリースされることになった。アコースティックギターやピアノの弾き語りを軸にしながら、ヴァン・ダイク・パークスのような躍動感溢れるストリングスをはじめ、内省的で工夫を凝らしたオーケストラ仕立ての音作りはThe Beach Boys『Pet Sounds』を彷彿させる。そのなかを揺らめくように漂うベルナルデスの歌声は、カエターノ・ヴェローゾを思わせる艶やかさ。トロピカリズモの実験精神と歌心が、ここにはしっかりと受け継がれている。