柳樂光隆が選ぶ、ジャズミュージシャンが奏でる“まだ名前の付いていない音楽”5選

 現代ジャズの状況を解説するジャズ・ガイド・ブック『Jazz The New Chapter 5』という本を出しました。その制作が終わったばかりで、発売されたばかりだけど、USのジャズシーンは相変わらず目まぐるしく動いていて、ロバート・グラスパーやカマシ・ワシントン、サンダーキャット、テラス・マーティンらよりもはるかに年下のミュージシャン達が、彼らが切り開いてきたサウンドを前提にしながら、新しいジャズを模索しています。その結果、素晴らしい新作がリリースされまくり。

柳樂 光隆(監修)『Jazz The New Chapter 5』

 ここでは本の製作直後に出たものや、直後にライブを観てビビったア―ティストを紹介します。カマシ・ワシントンやR+R=NOWに負けず劣らずのジャンルを超えたサウンドばかり。これらもまた「ジャズミュージシャンが奏でるまだ名前の付いてない音楽」であり、2018年以降の音楽を紐解くヒントが埋まっているサウンドだと思います。

 

Nyeusi & Justin Brown『Nyeusi』

Nyeusi & Justin Brown『Nyeusi』

 ジャスティン・ブラウンのデビュー作!! と言われてもピンとくるのはマニアだけかもしれないが、<ブレインフィーダー>のパーティーには必ず帯同していて、最近だと去年のフジロックの時のサンダーキャットのステージでもドラムを叩いていた人、と言えばわかりやすいかも。

 と、同時に、アンブローズ・アキンムシーレなどとも来日経験ありで、ブレインフィーダー周辺のビートミュージック×ジャズと、ゴリゴリのコンテンポラリージャズの両方で高い評価を受けているドラマーがジャスティン・ブラウンです。

 彼のデビュー作は、彼が以前からやっていたプロジェクトのNyeusiによるもの。内容はというと、かなりエレクトロニックミュージック寄りのインスト。サンダーキャットやテイラー・マクファーリンとも通じる<ブレインフィーダー>的なコズミックな雰囲気はありつつも、どちらかというとインディーロックっぽい軽さと80年代っぽいシンセの感じは今までにないサウンドで、その中でも印象的なのがウィンド・シンセサイザーEWIの音色。サックス版シンセサイザーとして、マイケル・ブレッカーなどにも愛用され、フュージョン時代に広まって、日本でもT-SQUAREなどが使用し人気を博したもののその後、忘れられていたこの楽器がヴェイパーウェーブやバレアリック以降の音色として効果的に使われています。

NYEUSI

 演奏するのはマーク・シム。90年代にMベース(Macro Basic Array of Structured Extemporizationの略。複雑な変拍子を軸にした演奏スタイルと理論)周辺で名前を見たサックス奏者でしたが、00年代に入って名前を見ないなと思っていたところこんなところで再び名前を見ることに。そう言えば、3年くらい前、ビッグユキに「最近面白いことやってる人いる?」って聞いたところ「マーク・シム。EWIをかっこよく使ってて」と言われたけど、ここで繋がるかと。

 他にはデヴィッド・ボウイ『★』にも参加していた鍵盤奏者のジェイソン・リンドナー、マーク・ジュリアナ・カルテットにも起用される気鋭のピアニスト/作曲家ファビアン・アルマザン、ロバート・グラスパー・エクスペリメントでデリック・ホッジと共にベースの席を担うバーニス・トラヴィスが参加。

 ファビアン・アルマザンのレーベル、バイオフィリアからのリリースというのも要注目。

Makaya McCraven『Where We Come From(Chicago × London Mixtape)』

Makaya McCraven『Where We Come From(Chicago × London Mixtape)』

 リリースは<International Anthem>から 。近年シカゴのジャズシーンでも最も注目すべき音楽家はこのマカヤ・マクレイヴン。シカゴのレーベルの<インターナショナルアンセム>からリリースした『In The Moment』『Highly Rare』はジャズとヒップホップが入り混じる2010年代の現代ジャズの流れだけでなく、シカゴのポストロックやAACM系統など、様々な要素が溶け込んだサウンドで、USのシーンの中でも超個性的なもの。そんなマカヤはトータスのジェフ・パーカーを刺激して、ジェフが『New Breed』を生み出すきっかけになったりとその動きに注目が集まってます。

 マカヤがミックステープとして発表したのは、UKの若手ミュージシャンとのセッションを編集したもの。ジャイルス・ピーターソン周辺のいわゆる『We Out Here』系の若手テオン・クロス、ヌビア・ガルシア、ジョー・アーモン・ジョーンズ、カマール・ウィリアムスの演奏の中に混じると、マカヤ・マクレイヴンのドラミングのフィジカルの強さやしなやかさが際立つ。

 『In The Moment』には、<Planet E>からリリースされたジョン・ディクソンのレコードにクレジットされているサックス奏者のデシーン・ジョーンズが参加していたり、シカゴハウスやデトロイトテクノとの関係を感じるマカヤは、実際にライブを観るとコズミックなシンセの音色やビートの作り方にジョージ・クリントン経由デトロイトテクノもしくはシカゴハウスなエレクトロニック/マシーン・ファンク雰囲気がかなりある。このミックステープはクラブジャズ系譜のUKの若手たちのループを軸にしたサウンドとの絡みの中で、これまであまり表出していなかったマカヤのキャラクターが聴こえるのが面白い。

*THE PROCESS* Makaya McCraven – Where We Come From (CHICAGOxLONDON Mixtape) pt. 1 of 4

 特に面白かったのはシカゴのコルネット奏者で、セオ・パリッシュにも起用されているベン・ラマー・ゲイとのコラボによる「King Drive 86’ Cutlass No Plates」。これもシカゴならではのクロスオーバーなサウンドだ。

Javier Santiago『Phoenix』

Javier Santiago『Phoenix』

 リリースは<Ropeadope>から。ここ数年、僕が最も好きなレーベルのひとつでがこの<ローパドープ>。クリスチャン・スコット、テラス・マーティン、(U)NITYなど、ジャンルで括れないタイプのジャズで何かと面白そうな作品はここから出ていることが多い。傘下にブッチャー・ブラウンの自主レーベルがあったり、以前はスナーキー・パピーの自主レーベルもここの傘下だったりした。

 そんなローパドープのリリースをチェックしていたら謎の若手ピアニスト、ハビエル・サンティアゴの新作で手が止まった。ブレインフィーダーとも通じるコズミックなサウンドのジャズで、音色やテクスチャーの選び方、そして、サウンドのレイヤーのしかたがセンス抜群。テイラー・マクファーリンやサンダーキャットのような響きと、オースティン・ペラルタやニーボディーのような即興演奏が同居していて、意外とありそうでない絶妙な落としどころ。

 クリスチャン・スコットのバンドにも起用されている新鋭ドラマーのコーリー・フォンヴィル。ジャズとインディーロックを行き来する新感覚のギタリストのニア・フェルダー、レディオヘッドやボン・イヴェールのインスパイアを形にするトランぺッターのジョン・レイモンド、更にブラッド・メルドーらとの共演でも知られるサックス奏者のデイナ・ステファンズ、アフロアメリカンの音楽としてのジャズを過激に推し進めるニコラス・ペイトンとメンバーも超充実。

 個々の楽器の選択や音色は的確に選択されているが、あくまでそれをバンドによるセッションとしてやっていて、ブレインフィーダー周辺のようなミックスやポストプロダクションへの執着が薄いのが個性になっている。さらに、個々の演奏はかなりダイナミック/パワフルで、その場で生まれたクリエイティブがそのまま曲の特徴になっている。例えば、ライブで見ると、身体も大きくて音も大きく、かつスピードも爆発力もあるコーリー・フォンヴィルのドラミングの魅力がザラッとした録り音でそのまま封じ込められていて、それが全編を通してコズミックなシンセやギターなどと絡みあって、グルーヴしている。

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