DISH//、快進撃予感させる新シングル『Starting Over』 新進気鋭の作家陣迎えて歌う“再スタート”

過去を振り返る冒頭~Aメロ

 冒頭の高速のドラミングからは彼らの歩むスピードの速さを、ピアノロックなサウンドには無邪気だった昔の自分を回顧する心象風景を、〈どんなこともできそうな気がしていた〉といった歌詞からは自分の無力さに痛感する様子が忠実に描かれる。疾走感のなかにどこか切なさのあるサウンドだ。

シンプルで短いBメロ

 AメロやCメロ(サビ)と比べると非常に短いのが〈目を背けたくなったけど〉のワンフレーズのみのBメロ。このようにBメロをシンプルにしたことでどういった効果が生まれるか、については解釈の分かれるところだろう。一般的にサビに到達する直前にネガティブに振っておくことでサビでのカタルシスを増す効果があるが、その“振り”を最小限にとどめておくことで曲全体の印象を明るいままに保っておく効果はあるかもしれない。

現在地を確認し、力強く未来を歌うCメロ

 鐘の音が祝福を演出する。全編にわたるストリングスの響きはどこか切ない。ボーカルが声色をここで少し荒げる。〈僕らは少しも強くないかもしれない〉〈何度でも前へ前へ 君と〉と、自分たちの無力さを痛感し、でも“君”とならまだ進んでいける、と力強く叫ぶ彼らの姿にはグループの現状が強く反映されているように思う。シンフォニックなアレンジを取り入れてボーカルは感情たっぷりに歌い上げる、BiSH「オーケストラ」以降のバンドサウンドである。

 ダンスロックバンドという形態においてベースの脱退は音楽性にどう影響するかというポイントについては、ほとんど影響はなかったと言ってよいだろう。あえて言えば、今までのDISH//作品と比べても全体を通してよりポップに、よりストレートに進化している点は、新体制・DISH//が示した新しい道筋かもしれない。単にバンド然としたサウンドではなく、「歌」そのものに重きが置かれた作りである。そして、彼らの明るいイメージにもうまく合致している感がある。

 10枚以上シングルを出してきた彼らだが、意外とこういった曲を歌ってこなかったのではないか。現在の好調ぶりを呼び寄せた“新井弘毅×DISH//”の組み合わせは、彼らにとって小倉しんこう以来となる黄金コンビと言えるかもしれない。彼らの今後の快進撃の予感を感じさせるリリースだ。

■荻原 梓
88年生まれ。都内でCDを売りながら『クイック・ジャパン』などに記事を寄稿。
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Twitter(@az_ogi)

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