西廣智一の新譜キュレーション 第5回
5FDP、Halestorm、Shinedown…モダンとクラシックが交差するアメリカンHR/HMの新たな潮流
ソロ作品で見せる新たな可能性
すでに一時代を築いた、あるいは押しも押されぬ人気を誇るバンドのフロントマンが、バンドとは異なるテイストのソロアルバムを発表することは今に始まった話ではありません。バンドに在籍しながらも、ある種の“ガス抜き”としてソロアルバムを制作したり、あるいはバンドからの“次のステップ”としてソロアルバムに可能性を見出したり、理由は人それぞれでしょう。
例えば、先日海外でリリースされたKornのジョナサン・デイヴィス(Vo)の初ソロアルバム『Black Labyrinth』はどうでしょう。彼がソロアルバムに着手したという噂はかなり前から出回っていましたが、実際にはバンド活動と並行して2008年からじっくり時間をかけてソロアルバムを作っていたそうです。
90年代以降のヘヴィロックシーンで常に第一線を駆け抜けてきたジョナサン。KornというバンドでもプログレッシヴロックやEDMなどに接近してきましたが、このソロアルバムではメタルというジャンルに縛られない、広い意味での“ロック”が表現されています。オープニングを飾る「Underneath My Skin」の壮大さを筆頭に、ゴシックロックやニューウェイブ、民族音楽、エレクトロニックミュージックなどジョナサンの懐の深さが感じられる、さまざまなタイプの楽曲が楽しめます。もちろん随所に“Kornらしさ”はにじみ出ているので、バンドのファンが聴いても楽しめるはずですし、「Kornはちょっとうるさくて」と感じている人にも手にとってもらいたい1枚です。
最後は、この秋にニューアルバム『Living The Dream』のリリースを控えている、Guns N’ Rosesのギタリスト・スラッシュのソロバンドSlash featuring Myles Kennedy & The Conspiratorsのボーカリスト、マイルス・ケネディ初のソロアルバム『Year Of The Tiger』を紹介します。マイルスはスラッシュのバンド以外にも、自身のメインバンドAlter Bridgeのフロントマンとしてもおなじみの存在。Alter Bridgeでは2016年に発表した5thアルバム『The Last Hero』が全米8位、全英3位という好成績を残しており、昨年秋にはライブ音源+レア音源からなる3枚組作品『Live At The O2 Arena + Rarities』を発表したばかりです。
そんな彼がソロアルバムで表現したかったのは、実の父親が亡くなった1974年を中心とした幼少期が題材のコンセプチュアルなもの。ブルースなどトラディショナルなルーツミュージックをベースに、普遍性の高いフォーキーなロックが展開されています。どこか内省的な雰囲気がありながらも、中には「The Great Beyond」のようにドラマチックな盛り上がりを見せる楽曲も含まれており、マイルスがこれまでに関わってきたバンドに興味があるリスナーなら間違いなく気に入ることでしょう。逆に、このソロアルバムをきっかけに、ここ日本では知名度がそれほど高くないAlter Bridgeに目を向けてみるのもいいかもしれません。
■西廣智一(にしびろともかず)
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。Twitter