『ダーリン・イン・ザ・フランキス』ED曲に隠された仕掛けとは? 6曲を手がけた杉山勝彦に聞く

杉山勝彦『ダリフラ』ED曲の仕掛け

「89秒で良いと思わせられないと、どのコンテンツにも負ける」

ーーあと、これまでの杉山さんの楽曲を踏まえたうえで今回気になったのは“展開の少なさ”で。ほとんどの楽曲で、AメロとBメロがコンパクトに作られているのが気になったんです。アニメソングとしては使われがちな手法ですけど、この辺りは意識しましたか?

杉山:いや、それに関してはアニソンだからというより、自分がいまタイトな構成を好んで使うモードに入っているからなんです。89秒でいいなと思わせられない曲は、どのコンテンツにも負けてしまうと思っているので。でも、そうすると歌詞の量が難しくなってしまうんですよ。言葉の数が減るので、状況説明が難しくて。特にワンコーラス目の作詞には苦戦しました。例えば「トリカゴ」だと、教室の中にいる一人の女の子が空をぼんやりと見て、こんな葛藤や思いを抱えている、という状況を書かなければならなかったのですが、この音数では「空を見上げる」でもアウトなんですよ。

――たしかに、〈空に問う〉にしないと収まりきらないくらいの音数ですね。

杉山:しかも〈問う〉だけで「見る」と「訊く」の2つの動作が入るので、あの言葉しか入りようがないんです(笑)。そんな感じで、音数の少なさを意識しながら、どれだけ設定や物語のことを伝えるか、という部分に力を入れました。

――錦織監督が乃木坂46へ提供した楽曲を気に入って、というオファーの経緯がありましたが、これまで杉山さんがアイドルへの楽曲提供で出してきたある種の“杉山勝彦らしさ”を、どの程度出すのか、という部分で迷いはありましたか?

杉山:その人らしさというのは“センス”という言葉に置き換えれると思うんですけど、それって「数値化できないものを最適化する能力」であって、過去の音楽経験から正解を決めることなんです。楽曲提供をするときって、何かしらの歌い手さんやコンテンツがあって、求めている落としどころも提示されて、そこを自分なりに解釈して狙ったところに作ると、どうしても最大公約数的な自分らしさは出ちゃうと思うんです。独りよがりで「どうしてもこうしたいんだ」と作っても、視聴者の方やコンテンツを作る側のスタッフさんも楽しめないですし、みんながハッピーになれるものがポップソングのいいところだと思うので、一生懸命どうやったらみんなが良いと感じてもらえるものを作るか、というイメージなんですよね。

――「真夏のセツナ」は、6曲のなかでも一番意外性のある楽曲ですよね。唐突に用意されていた“水着回”で使用されたエンディング曲ですが、元々のオーダーはどういうものだったんですか?

杉山:「この曲だけは並行世界的に本編から外れてはっちゃけてしまってもいいです」という感じで、キーワードも「夏曲・アイドル・ポップ・ゼロツーがセンター」という(笑)。

――そこまでアイドル寄せだったんですね(笑)。

杉山:でも、本編にもしっかりと関連していて、2番の歌詞はストーリー上に出てくる要素だったりするんです。今作のほか楽曲とも大きく色は違うんですけど、音はなるべく全体の枠組みから外れないようにしていて。どの曲も最近のEDMでありがちなバキバキのシンセは使わずに、バンドとストリングスが基本的な編成で、この曲だけブラスを加えました。テンポこと今っぽくしていますが、ドラムパターンや節回しも含めて、懐かしい要素をあえて入れるようにしました。

――たしかに、歌謡曲としての懐かしさはありますね。あと、「Beautiful World」と「トリカゴ」は、構成に共通する部分もあって、〈初めての好き 大事にしたい〉(「Beautiful World」)〈空は 綺麗なのに〉(「トリカゴ」)と、サビの最後で余韻を残して終わっているんですよね。このあたりは意識したんですか?

杉山:いや、ノリですね。どちらの曲もイントロ勝負なとこがあって、それはアウトロにもいえることで。特に「トリカゴ」はイントロとアウトロの調が違って、アウトロで全音半上がっている状態で、同じフレーズを弾いているんですよ。その展開は曲だけで聴かせるよりも、言葉があったほうがグッとくるなと思って、最後に加えた要素なんです。2曲は歌詞でも関連していて、とくに〈空は 綺麗なのに〉(「トリカゴ」)は、あとから「Beautiful World」で締め切った教室から空を見上げて窓を開ける、というストーリーにしたことで、2曲に繋がりをもたせました。

――で、4曲目の「ひとり」は、13話のみのオンエアですが、かなり刺さった方も多いのではないかと思います。

杉山:一撃必殺系です(笑)。アニメも素晴らしい回でしたね。

――わかります。絵本を全部一時停止して、中の文章を熟読してしまいました(笑)。この曲はフォークっぽいアプローチが印象的でした。

杉山:これは実はもっと仕掛けがあって。(取材時点で)まだ放送されていない楽曲で、「この曲の旋律を何かしらの形で使って欲しい」というオーダーがあったので、その辺りの作り変えも意識しています。「ひとり」のサビがその曲のブリッジになっていて、Aメロがサビになっているんですよ。だから、この曲のAメロは、サビ感も含むくらいの旋律を意識して作りました。

――そんな仕掛けがあるんですね。

杉山:だから、作っていて楽しかったです。サウンドも他と若干違う部分もあって、回想で流れる音楽なので、ヴィブラフォンやエレキギターのトレモロを使って、ボーカルも戸松(遥)さんの声をダブリングして、浮遊感で懐かしさを演出しました。その中で〈普通が良くて そうありたくて〉という歌詞があるんですが、これはかなり特殊な幼少期を過ごして、孤独を抱えているゼロツーが、普通になりたいと願う曲ーー多くの人が抱えている、「仲間外れになりたくない」というコンプレックスも描きました。

――そして後半のエンディング曲「escape」は、マイナーコードを多用した、どこか不穏な雰囲気のある一曲です。

杉山:これは、さっきの孤独感とは別で、「トライしたけど絶望した。だけどまだ、絶望し切っていない」という、まだ自分に酔っている状態の曲なんです。だからビートは8分の6で、キックも少し荒っぽくしてみました。

――そのテンポ感で、最後にリバーブの掛かったスネアで終わるというのは、自己陶酔の結果最後にはダメになっちゃう、という感情みたいで面白いですね。サビの節回しのスケール感も、杉山さんがこれまで手がけてきた曲っぽくなくて、面白いです。

杉山:ああいうドリアン・スケールって、個人的には好きなんですよ。でも、ちょっとRPGぽくなるというか。それだとアイドルポップスには合わないし、機会があれば使おうと思っていたので、今回それが使えて嬉しいです。この曲と「ダーリン」では頻発してますね(笑)。

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