平井堅、なぜ映画主題歌に選ばれる? 新曲「トドカナイカラ」とキャリアから考察
平井堅の新曲「トドカナイカラ」が主題歌を務める映画『50回目のファーストキス』が6月1日より公開された。同作は、山田孝之と長澤まさみがW主演、『銀魂』や『斉木楠雄のΨ難』といった漫画原作映画で話題を呼んだ福田雄一が監督を務める恋愛映画。「トドカナイカラ」は今回の映画のために書き下ろされた楽曲だ。
山田孝之×長澤まさみ×平井堅という組み合わせから、『世界の中心で、愛を叫ぶ(セカチュー)』を思い出した人も少なくないはず。山田孝之は『セカチュー』のドラマ版で主人公のサクを、長澤まさみは映画版でサクと恋に落ちるヒロインのアキを演じており、映画版『セカチュー』の主題歌は平井堅の「瞳をとじて」だった。
『世界の中心で、愛を叫ぶ』は日本で一大ブームを巻き起こしたが、エンドロールで多くの鑑賞者の涙を誘った「瞳をとじて」の貢献も非常に大きい。同シングルは発売年のオリコンシングルチャート年間1位を記録したほか、ミリオンヒットを達成。映画も観客動員620万人、興行収入85億円を記録しており、平井堅×ラブストーリーの親和性の高さを知らしめたと言える。『セカチュー』以降は、『愛の流刑地』(「哀歌(エレジー)」)や『僕の初恋をキミに捧ぐ』(「僕は君に恋をする」)といった恋愛映画をはじめ、中谷美紀が主演した『繕い裁つ人』(「切手のないおくりもの」)、国民的アニメ『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』(「僕の心をつくってよ」)など、幅広い作品で主題歌を担当している。
なぜ平井堅は主題歌に起用されるのか。ひとつは平井堅が持つアーティストとしての多面性が挙げられる。“ポップ”と“アート”を行き来するアーティスト性、男性と女性にも寄り添える中性的な感性から生まれる歌詞、J-POPから本格的なR&Bまで歌いこなすシンガーとしての高い実力……ここまで多彩な表情を持つシンガーは稀な存在だ。枠に捉われない活動スタンスも、ジャンルを問わず作品へコミットできる柔軟性に繋がっているのだろう。
主人公の喪失と再生を描いた「瞳をとじて」をはじめ、女性視点から恋人への愛憎を歌った「哀歌(エレジー)」、人が持つ弱さや優しさが感じられる「僕の心をつくってよ」など、平井堅は複雑な感情や出来事が絡み合う作品に寄り添いながらも、聴き手の共感を呼ぶ普遍性のある主題歌を次々と生み出してきた。
「トドカナイカラ」においては、主人公とヒロインの日常の風景と同時に、恋愛における切なさと幸福の両方を感じ取ることができる。プレイボーイの主人公・大輔と1日で記憶がリセットするヒロイン・瑠衣の恋愛模様が描かれいた本作。1日で恋人に忘れられてしまう切なさがありながらも、福田監督ならではのユーモアが散りばめられた笑って泣けるラブコメディだ。
軽やかなエレキギターのメロディに乗せて歌われる<毎日君に恋するため 毎日君を抱きしめよう/忘れるから 移ろうから 届かないから/大好きと笑って欲しい>という歌詞には、大輔の心情が表現されている。リリースに際して平井堅は「愛とは継続するものだけれど、実は日々忘れて思い出しての繰り返しの中で構築され、磨かれていくものなのかもしれない」とコメントを寄せているように、恋や愛の核心を突くようなメッセージも含まれていると言える。
映画主題歌は、登場人物の心情を代弁していたり、主人公のその後を描いたエピローグ的な意味合いを持つことも少なくない。平井堅の映画に寄り添った共感性の高い楽曲は、作品と鑑賞者をより強く結びつける存在であり、物語を深く味わうために欠かせないものとなっているのだろう。
(文=泉夏音)