INNOSENT in FORMAL、MVや小説で拡張する“物語” メディアミックスが生む面白さを探る

INNOSENT in FORMALの独自性を考察

 INNOSENT in FORMALの初の全国流通盤となる1stミニアルバム『INNOSENT 0 ~The night late show~』が、4月25日にリリースされた。リリースに際して、FLOWのTAKE、ササノマリイ、THE PINBALLSといった、これまでライブの現場や作品で関係を持ってきたアーティストがコメントが寄せているほか、本作収録の「I wanna...」がAmazon Music Unlimitedのキャンペーンソングに決定するなど、全国流通盤のリリースタイミングで各所から注目が集まりはじめている。

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 INNOSENT in FORMALは、ぽおるすみす a.k.a. STICKY(ボーカル)、もともとはひとりの人間から分裂したTOY BOY(ドラム兼リーダー)とCANDY MAN(ギター)、​Kuni the ripper(ベース)の4人からなる架空のカートゥーンバンド。これまでASIAN KUNG-FU GENERATIONとKEYTALKの対バンをはじめ、04 Limited Sazabysやビッケブランカらが参加した『No Big Deal Night』、FLOWの対バンツアーなどのオープニングアクトを担当。また、5月5日・6日の2日間開催される『J-WAVE & Roppongi Hills present TOKYO MAPS』では、5月6日のオープニングアクトにも抜擢されている。特異なバンドスタイルに目が行きがちだが、楽曲はもちろん、ライブパフォーマンスの実力の高さも業界内外で話題になっているようだ。

 また、音楽作品のリリースのみならず、この4月からはSNS上の連載小説でバンドの世界観を伝える「innosent_novel(@innosent_novel)」が始動するなど、メディアミックス作品としての魅力も生まれはじめている。まずは現在明らかにされている“彼らのはじまり”を簡単にまとめておこう。

 舞台は21XX年のNEO TOKYO。閉館前夜の古びた映画館で老齢の支配人が思い出を振り返りながら閉館の準備を進めていると、地下室で「謎のフィルム缶」を発見。映写機で上映したところ、かつて一世を風靡したサーカス小屋出身のバンドが旅をするアニメーション映画がスタートする。観客は老齢の支配人ただひとり。彼が夢中になって映画を観ていると、突如スクリーンからバンドが飛び出し、現実世界のアーティストとして目の前に現われる。観客がひとりであることに憤慨した彼らは、自らの音をより多くの人々に届けるため、全国を回るツアーに旅立つ――。

 つまり、映画内で繰り広げられた旅が、スクリーンを飛び出して現実世界で展開されるということなのだろう。物語の全貌はまだ判明していないが、Twitterノベルではこの映画館のシーンの詳細や、各メンバーに焦点を当てた回想パートの投稿が進んでいる。その中で怪我をきっかけにサーカス団を追われたぽおるすみすの過去を筆頭に、それぞれのメンバーが抱える背景や葛藤などが徐々に明らかにされている。

 また、そうした小説やキャラクター設定に登場する「echo」や「PEACE」といったタバコの銘柄や、ぽおるすみすの好きなブランドとして楽曲内にも登場する「Dr. Martins」、中原中也の詩など、細かなディテールによって浮かび上がってくる世界観。さらにカートゥーンアニメ的なキャラデザインや楽曲から受ける印象も相まって、『AKIRA』や『ブレードランナー』的な近未来SF/サイバーパンク感があることも大きな特徴だ。

 2010年代末に登場したINNOSENT in FORMALが21XX年のNEO TOKYOを舞台にした物語であることは、おそらく2019年の東京湾上に建設された新首都・ネオ東京を舞台にした『AKIRA』へのオマージュだろう。加えて、リスナーが物語の断片を集めることでバンドの全体像が浮かび上がる構造は小説というより体験型のアトラクション的でもある。アニソン作品などで「担当アーティスト」と「作中のキャラクター」の2軸の物語が楽曲に深みを加えていくのと同じように、「音楽」と「物語」の相互作用がグループの活動に深みを加えるような雰囲気がある。

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