LDHはなぜ飲食業に進出? LDH kitchen代表 鈴木裕之氏が語る、食とエンタテインメントの融合

LDH kitchen代表・鈴木裕之氏インタビュー

 EXILEや三代目J Soul Brothersが所属するエンタテインメント企業・LDH JAPANが、飲食業界にも進出していることをご存知だろうか? LDH JAPANの子会社にあたるLDH kitchenは現在、都内を中心に13店舗の飲食店を経営しており、中には所属アーティストがプロデュースを務めた店舗もある。店舗ごとに事業形態が異なっていて、それぞれ個性的な店構えとなっているのは、大きな特徴だ。代表の鈴木裕之氏に、LDH kitchenの理念やビジョン、エンタテインメント企業ならではのアプローチについて話を聞いた。(編集部)

LDH  kitchenの成り立ち

鈴木裕之氏

ーーLDH  kitchenでは現在、13店舗の飲食店を経営しています。そもそも、なぜエンタテインメント企業であるLDHが飲食業に参入したのでしょうか?

鈴木:飲食を始めたのには、大きくは二つの理由がありまして、まず一つはLDHに所属するアーティストに、健康的で美味しい食事を提供したいという目的がありました。アーティストは身体が資本ですから、やはり食べ物にも気を使う必要があります。もう一つは、アーティストが気軽に行けるお店を作りたい、みんなで安心して食事ができる場を提供したいという狙いがありました。いわば、アーティストたちが食事を通してコミュニケーションをするためのプラットフォームとして、飲食店を立ち上げたんです。つまり、もともとはアーティストへの福利厚生としての意味合いが大きかったのですが、せっかく素敵な店舗があって、美味しい料理を提供しているのだから、ファンの方や一般の方にも楽しんでもらおうと、だんだんと飲食グループとして本格化していったという流れです。

ーーアーティストへの福利厚生として始まったことによって、飲食業としてはどんなメリットがありましたか。

鈴木:まずアーティストに提供する料理なので、様々な面で妥協はできませんし、だからこそ味に関しては自信があります。実際、原価が多少高く付いても、良いものやこだわったものを出すというのは、LDH  kitchenの基本的な姿勢として全店舗に共通しています。アーティストが普段から口にしている食事は、お客様にとっても安心して召し上がっていただけるものだと自負しています。

ーーLDH  kitchenの理念とそのビジョンを教えてください。

鈴木:理念は、ほかのLDHグループ企業とも共通する「LOVE DREAM HAPPINESS」です。これを飲食業に即して言うなら、LOVEはお客様に対してはもちろん、一緒に働く従業員に対しても愛情を持って接するということです。まず、仲間同士でそれができないことには、お客様に愛情を提供することはできません。DREAMに関しても同様で、仕事における夢はもちろんのこと、プライベートでの夢でも良いので、従業員ひとりひとりがちゃんと胸に抱いてそれを共有して働いてほしいと伝えています。HAPPINESSは、働く仲間たちと一緒に幸せな時間を共有していこうという意味で、その幸せな時間をお客様にも感じていただけるように努力しています。

 そうした理念を踏まえたうえで、LDHならではの飲食店をやっていきたいというビジョンをもっております。私たちは、食事もエンタテインメントであると位置付けていて、お客様に対してどのようにワクワク感を伝えていけるかを重視しているんです。料理の内容はもちろんですが、空間作りやスタッフのサービスにおいても、いかに楽しんでもらえるかが大切で、それがLDHならではの店舗作りにつながっています。たとえば、店舗ごとにまったくコンセプトが異なっていて、通常のチェーン展開をしていないのも、食事をエンタテインメントとして楽しんでもらうためです。LDH  kitchenはまだ世間的には、「LDHが飲食業をしている」くらいの認識だと思いますが、目標としては2020年までには、一つの飲食店グループとしての地位を確立していきたいと考えています。

各店舗のコンセプト

ーー1店舗ごとにコンセプトが違うのは、飲食グループとしてはかなり珍しいですね。

鈴木:LDH  kitchenの各店舗は、偶然の出会いから生まれたものも多いんですよ。たとえば、たまたまアーティストや幹部が訪れた飲食店の職人さんと意気投合して、その熱い思いを聞いたうえで、じゃあ一緒に新しいお店を開こうとなったり。LDH  kitchenには現在、3店舗の焼き鳥屋があるのですが、職人さんありきでやっているので、どのお店も食材へのこだわりから焼き方まで全然違います。職人さんの個性を前面に出していくのは、LDH  kitchenの大きな特徴ですね。店舗ごとに仕入先も違うので、スケールメリットが活かせないという欠点もありますが、私たちはそれをむしろLDH  kitchenの強みと捉えています。たとえば、全国の生産者と直接やり取りすることで、地方創生の一助になれば、それはLDH本来の理念にも通じますし、お客様からの信頼にもつながるのかなと。また、それぞれ出自の違う職人たちや店長たちで月に一度、情報共有の場を設けることで、ほかの飲食業にはないクリエイティビティを発揮できるのも、大きな強みです。

ーー具体的に、いくつかのお店のコンセプトを教えてください。

「居酒屋三盃」の外観。木のぬくもりが感じられて、ふらりと立ち寄りたくなる雰囲気だ

鈴木:安定して人気があるのは「居酒屋三盃」で、居酒屋らしく幅広いメニューを扱っているのですが、料理長が毎日良い食材を厳選して仕入れているので、刺身ひとつ取っても抜群に美味しいですし、行くたびにおすすめが変わるので飽きることがありません。看板メニューのカニクリームコロッケは、一つ一つ手作りで、とても人気があります。お店も活気があり温かい雰囲気で、美味しい手作りの料理を気兼ねなく楽しむことができるお店です。

 アーティストと一緒に作り上げた店舗でいうと、EXILE TETSUYAがプロデュースした「AMAZING COFFEE」もおすすめです。TETSUYAさんはコーヒーマイスターの資格も持っているほどコーヒーに対する造詣が深く、豆からこだわって最高の一杯を作りあげています。もともとはTETSUYAさんが作ったコーヒーを自分自身で差し入れするところから始まった「AMAZING COFFEE」ですが、今では中目黒、横浜、大阪に店舗をもち、今後も順次広げていく予定です。

「井上チンパンジー」の「生姜焼きカレー 生卵のせ」(¥850)

 カレーショップの「井上チンパンジー」は、あらゆるスパイスの配合を試しに試して、ようやく出来上がったこだわりのカレーを提供しています。同店舗のイメージキャラクターの「井上てっつ」は、イベントやライブ会場などでも登場しています。こうしたちょっとした遊び心は、ファンの方にも好評ですね。

 「いえ村」は鶏鍋の専門店で、宮崎県の老舗の鍋店「おらが村」の秘伝のレシピを使っています。EXILEメンバーやLDHスタッフが宮崎を訪れた際に「おらが村」の鍋を食べて、その美味しさに衝撃を受け、いつかこの味を東京でもやりたいという想いから、業務提携が実現しました。これは一度食べていただければお分かりいただけると思いますが、ちょっとほかのお店では味わえない逸品です。

ーーLDH  kitchenでは、「居酒屋えぐざいる」や「LDH LAND」など、イベントでの出店も事業の柱の一つかと思います。会場ごとに工夫を凝らしたメニューが出ていて、味わいも本格的です。

鈴木:「居酒屋えぐざいる」に関しては、おかげさまで夏の風物詩のようなイベントになりました。お祭りのような雰囲気の中で料理を提供するのは、食とエンタテインメントとの融合という意味では最たるもので、LDHらしいイベントですし、LDH  kitchenにとって大切な事業です。ライブ会場の外で、物販コーナーなどとともにLDHの世界観を楽しんでもらう「LDH LAND」での出店は、その試みの延長にあるもので、ライブ本番だけでなく、ライブが始まる前からファンの方にワクワクしてもらえるようにという想いからスタートしました。イベントに合わせて、半年くらいかけて一からメニューを開発しています。オペレーションなどにはまだまだ課題はありますが、LDHの総合的なエンタテインメントの一環としてファンの方々に喜んでいただけるよう、いっそう改善していきたいと考えています。収益性よりも、まずはお客様に喜んでもらうのを第一に考えるのは、店舗もイベント出店も同じで、LDHのビジネス全般に通じるところだと思います。

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