三代目JSBや『HiGH&LOW』の衣装はどう作られる? LDH apparel 小川哲史氏が語る、エンタメとファッションの連動
EXILEや三代目 J Soul Brothersらが所属するLDHのアパレル部門・LDH apparel。同社では、所属アーティストのステージ衣装をはじめ、『HiGH&LOW』シリーズのコスチューム・プロデュース、「24karats」「J.S.B.」といったオリジナルブランドの運営など、LDH関連のファッション分野を総合的に手がけている。
今回リアルサウンドでは、LDH apparelの小川哲史社長にインタビューを行い、エンタテインメント企業ならではのアパレル戦略、『HiGH&LOW』各チームのスタイリングコンセプトなどについて話を聞いた。(編集部)
三代目 J Soul Brothersのステージ衣装について
ーー先日、三代目 J Soul Brothersのライブツアー「UNKNOWN METROPOLIZ」が最終公演を迎えましたが、LDH apparelではステージ衣装も手がけているそうですね。
小川:三代目 J Soul Brothersに限らず、LDH所属アーティストのステージ衣装全般にかかわっています。LDH apparelならではのこだわりとしては、楽曲のコンセプトや世界観などは踏まえつつも、いわゆる舞台衣装的なものではなく、ファッションのトレンドやディティールをしっかり捉えたものにしたいと考えています。一般の方はもちろん、ファッション業界の方が見ても良いと思ってもらえるような、ファッション感度の高い衣装というイメージですね。
僕が代表に就任する前、2007年にEXILEで「24karats」という楽曲を発表したのですが、その楽曲はブランドありきでHIROさんが世界観を構築して、僕らがMVの衣装を作ったんです。そして、その衣装のレプリカをアパレルで販売しました。つまり、ファッションとして成立することが前提にあって、それをアーティストとともに盛り上げていこうという発想で、いわゆるファン向けのアーティストグッズとは異なった制作プロセスを経ているんです。昨今だと、たとえばカニエ・ウェストやジャスティン・ビーバーといった海外アーティストが、自分たちのMVやアルバムのコンセプトやグラフィックをそのままマーチャンダイジングして、ファッション・マーケットに向けてアイテムを販売していますけれど、僕らは割と早い段階から同じようなことをしてきたのかなと。
ーーファッションありきで、アーティストと連携を取ったビジネスモデルを構築してきたと。
小川:最近の例でいうと、三代目 J Soul Brothersの「J.S.B. LOVE」のMVの衣装を、メンバーのNAOTOさんと一緒に考えて、レプリカとして販売しました。NAOTOさんは2017年からLDH apparelの取締役にも就任して、自身でSTUDIO SEVENというブランドをディレクションしています。ステージ衣装に関しても、彼がほかのメンバーの意見を取りまとめて、三代目 J Soul BrothersとLDH apparelの間を繋いでくれるので、発信力を持ったアーティストがビジネスに積極的に携わる、LDHならではの強みを活かしたビジネスモデルだと思います。
ーーアーティストによる発信は、反響が大きそうです。
小川:大きいですね。ファンの皆さんにはとても喜んでいただいていて、アイテムが即完することも少なくありません。三代目 J Soul BrothersをサポートしているJ.S.B.というブランドがあるのですが、その洋服も実際にステージでメンバーが着用していて、人気が高いです。結果として、ファンの皆さんにもさらにオシャレになっていただけたら、すごく嬉しいですね。
『HiGH&LOW』の衣装について
ーーLDH関連の衣装でいうと、『HiGH&LOW』の登場人物たちの服装も、それぞれ個性的で面白いですね。
小川:『HiGH&LOW』に関しては、僕がコスチューム・プロデューサーを担当させていただきました。HIROさんから、ちゃんとファッションとして見てもらえるように、妥協のない仕上がりにしてほしいとのお話があったので、各グループの成り立ちを理解した上で、錚々たるスタイリストとともに、それぞれのファッションスタイルを細かく決めていきました。
ーー各チームのファッションのコンセプトを、詳細に教えてください。
小川:山王連合(岩田剛典ほか)は下町のギャングチームで、山王商店街を守るために戦っている人たちなので、日本特有のアメカジ文化を色濃く反映させました。スカジャンなどが特に象徴的なのですが、ヴィンテージ系アメカジブランドでまとめています。コブラ(岩田剛典)はクーティー、ヤマト(鈴木伸之)はテンダーロイン、ダン(山下健二郎)はキャリー、テッツ(佐藤寛太)はネイバーフッドという感じで、それぞれ好きなブランドまで設定していて。細かく言えば、エンジニアブーツもレッドウィングの90年代ヴィンテージだったり、中の肌着もUS製のヘインズだったり、アンダーウェアまで徹底的にこだわっていますね。
雨宮兄弟(TAKAHIRO、登坂広臣)は、山王連合と同じくバイカーなんですけど、モード系のハイブランドでスタイリングしています。彼らは常に良いものを着ていて、高価なバイクに乗っていて、強すぎるから戦っても服が汚れたりしないという設定なんです。だから、彼らが身につけているライダースジャケットなどは、サンローランとかジバンシィのものです。
ムゲン(AKIRA、青柳翔)のふたりは、アメリカのモーターサイクルギャングをイメージしているキャラクターなので、それをそのまま表現しました。初代のムゲンはライダースの上にデニムのベストを着ているんですけれど、その着こなしって60年代にバイカーがしていたものなので、彼らが着ているのも60年代のヴィンテージで、ワッペンも当時のように全部ヴィンテージ加工して付けています。二代目の黒づくめのムゲンは、どちらかというと今のスタイルに近くて、現行のバンソンとかショットなどのレザーベストに、ワッペンを付けるスタイリングにして。解散後の琥珀と九十九は、その流れを踏まえつつ、本人と話し合いながら作っていったのですが、AKIRAくんから「『ブラック・レイン』のときの松田優作さんみたいなイメージが良い」とリクエストがあったので、黒いレザーコートを仕立てました。九十九も、琥珀と同じく大人っぽく見せたかったので、トレンド的にスカジャンが流行っていたこともあって、サンローランのスカジャンをちょっと大人っぽく着こなしてもらいました。それがハマったので、今は青柳翔さん専用にスカジャンを仕立てています。
ホワイトラスカルズ(黒木啓司ほか)は『時計じかけのオレンジ』がモデルになっているんですけれど、それをそのまま真似るのではなく、日本のストリート・ファッションの感覚も取り込みつつ、全身白でサイバー・パンク的なスタイリングにしました。初期の頃は、ちょうどコム・デ・ギャルソンに真っ白のルックがあったので、それをカスタマイズして着ていて、最新作の『HiGH&LOW THE MOVIE3/FINAL MISSION』では、僕が衣装を制作しています。
ルードボーイズ(窪田正孝ほか)は、ブラジル映画『シティ・オブ・ゴッド』をイメージしているグループなんですけれど、実際に南米のスラムの服装となると、ほとんどTシャツと短パンになってしまいます。なので、ヴィンテージのサープラスウェアを自分たちでリメイクして着こなしているチームにすることになりました。ミリタリーウェアやスウェットといったアイテムを解体して再構築しつつ、彼らはパルクールをやるので、アクティブに動けるように機能性にもこだわってスタイリングしていきました。
鬼邪高校(山田裕貴ほか)は、いわゆる“不良学園モノ”のオマージュなのですが、テーマ曲がハウス・オブ・ペインの「JUMP AROUND」をDOBERMAN INFINITYがカバーしたものなんですね。ハウス・オブ・ペインは、白人のアイリッシュ・ヒップホップチームだったので、村山たちはスケート寄りのヒップホップ・ファッションをベースにスタイリングしていきました。スケーターファッションの上に学ランを羽織る感じですね。そこに西海岸系のイメージを加える感じで、ネイビーブルーをテーマカラーにして、当時のハードコアっぽいものをミックスしながら作り上げています。
その対称となるのが達磨一家(林遣都ほか)で、鬼邪高校のネイビーブルーに対して、赤をテーマカラーにしました。イメージとしては、西海岸で対立していたギャングチームのクリップスとブラッズみたいな感じです。また、HIROさんから「達磨一家はハッピを着ている」という設定をいただいていたので、赤いハッピを羽織りつつ、ファッションは往年の90年代ヒップホップで、ダボダボのスタイリングです。
マイティウォーリアーズ(ELLYほか)は、音楽でのし上がってきたチームでお金も持っているので、最先端のヒップホップのファッションを基本に、メンバーそれぞれと話し合いながら自由にスタイリングをしています。もっとも役者本人たちの意向を反映しているチームで、NAOTOさん演じるジェシーに関しては、ヒョウ柄を取り入れるという決まりごとがあるだけで、ほとんどセルフスタイリングです。ほかのメンバーもそれぞれ、パール(野替愁平)なら黄色かオレンジ、バーニー(白濱亜嵐)なら黒系のスポーティー、9(ANARCHY)なら赤といった感じで、基調となるカラーを決めつつ、バラエティーに富んだスタイリングになっています。