桑田佳祐、『MVP』3冠までの軌跡 実り多き30周年を小貫信昭が振り返る

桑田佳祐『MVP』3冠までの軌跡

 桑田佳祐のソロ活動30周年は、たいへんな盛り上がりを見せた。大晦日の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)では、ドラマ『ひよっこ』特別編に本人も出演し、単なる主題歌提供にとどまらない、濃密かつ軽快なコラボレーションを展開した。そしてこれは、実績に胡座をかくのではなく、常に己を有機的に耕し続けた彼だからこそ実現したものだった。

 ところで30周年は、未だ過去形ではない。2018年を迎え、いきなり嬉しいニュースが飛び込んできた。1月3日に発売されたベストミュージックビデオ集『MVP』が、発売1週間で出荷10万枚を大きく突破、1月15日付のオリコン週間DVDランキング、BDランキングで1位を獲得した。ちなみにこれは、映画なども含む、すべての映像エンターテインメントにおいての首位獲得である。さらには総合ミュージックDVD・BDランキングでも1位となり、幸先良く3冠を達成した。

 ミュージックビデオ自体は、音楽アーティストにとって副次的なものだろう。しかしここにも、ソロ活動30周年により再熱した、桑田佳祐を求めて止まない人々の圧が、数字として押し寄せたのである。 

 実り多き30周年の“起点”となったのは、一昨年6月にリリースされた「ヨシ子さん」である。未だにあの曲は、どのカテゴリーにも属さず、奔放さを失わない。今にして思えば、グローブを高い場所で構え直しての、新たなファイティングポーズがあの作品だったのかもしれない。

 解き放たれたかのように楽曲制作に邁進した桑田は、最新アルバム『がらくた』へと辿り着く。このタイトルは、ここ最近のソロアルバムとはテイストが異なる。『ROCK AND ROLL HERO』や『MUSICMAN』は、化身たる自分を表わすところがあり、ソロ作であるという意識は、そこにも働いていたように思う。

 『がらくた』は違う。限りなく“無題”に近い。もちろん遠景からは“ガラクタ”に思えたが、近づけば“宝の山”であったみたいな、受け手である我々に二次創作的レトリックをプレゼントしてくれるネーミングではあったが、僕自身、「ともかく聴いてみなきゃ」という、音楽ファンとして原初的な気持ちになったものだった。一般的に名作といわれるアルバムには、「全体が“一曲”のような統一感を醸し出し、でもそれは、あくまで個性豊かな“各曲”である」という、いわばアンビバレントな特性が備わるものである。

 しかし『がらくた』は、統一感を必要としないほどに“各曲”が充実し、時に原色を言祝ぎ、時に単色を極め、息つく暇もない充実ぶりに説得され、気付けばそれが全体を成すほどに強烈なバラエティアルバムなのだった。

 当然、聴き手にそれは強い磁場のまま共振していった。『がらくた』は、趣味趣向が細分化される時代にあって、おのおの様々に説得しうる内容であり、それはやがて、世の中の反応として、ハッキリ跳ね返ってきた。

  昨年の8月にリリースされるやいなや、発売週のオリコンや各配信サイトなどで1位を総ナメし、(さらにここからが肝心なのだが)発売3週目の3位から、なんと4週目にして、再びオリコン週間CDアルバムランキングで、1位に返り咲いたのである。それは典型的な、ロングセラーへと続くチャートアクションだった。以後、このアルバムは今も、注目を集め続けている。

 アルバムを引っ提げ、昨年10月にスタートしたのが、『桑田佳祐 LIVE TOUR 2017「がらくた」』である。ツアーにおいて桑田は、ニューアルバムからの作品を、セットリストの前半に固めて、惜しげもなく披露し、大喝采を浴びることとなる。

 とかく30周年というと、ベストセレクション的になりそうなところを、“今こそが自分のベスト”と言わんばかりに、攻めたのである。そのパフォーマンスは新作にありがちなヨソヨソしさを既知感へと変換し、コンサート前半で、いきなりフルコースの肉料理の段階くらいまで観客の胃袋を満たした(もちろんそのあと、別腹がいくつあっても足りないくらいの全体的なボリュームで、ライブは大団円を迎えたのだが……)。アルバムがベストセラーを続けていったのは、ツアーとの相乗効果でもあったのだろう。

 発表によると、『がらくた』はさらに様々な音楽チャートを席巻し続け、合計で30冠越えなのだという。よくぞこれだけのチャートを賑わせたものだ。今という時代、カンムリが多ければ多いほど、正真正銘“ポップ”である証となる。

 しかしその一方で、桑田はかつて、ひとつの歌が様々な世代を繋げた時代を知る人間として、そのことを諦めてはいない。2017年、もっとも幅広い世代が口ずさんだ歌は「若い広場」であり、その作者が桑田佳祐であることを、努々忘れてはならないだろう。

(文=小貫信昭)

桑田佳祐『MVP』(初回限定盤DVD)

■リリース情報
ソロ30周年記念ベスト・ミュージックビデオ集『MVP』
発売:2018年1月3日(水)
<形態>
【Blu-ray 初回限定盤】¥5,800(税抜)※Bonus Track付
【Blu-ray 通常盤】¥5,800(税抜)
【DVD 初回限定盤】¥5,800(税抜) ※Bonus Track付
【DVD 通常盤】¥5,800(税抜)
<収録内容>
全30曲収録
※[ ]内には楽曲発表年を記載  
1. 悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE) [1987]
2. SHE’S A BIG TEASER [1988]
3. 真夜中のダンディー [1993]
4. 月 [1994] 
5. 祭りのあと [1994] 
6. 波乗りジョニー [2001]
7. 白い恋人達 [2001]
8. 東京 [2002] 
9. ROCK AND ROLL HERO [2002] 
10. 素敵な未来を見て欲しい [2002] 
11. 明日晴れるかな [2007]  
12. 風の詩を聴かせて [2007] 
13. ダーリン [2007]    
14. 君にサヨナラを [2009] 
15. 本当は怖い愛とロマンス [2010] 
16. 銀河の星屑 [2011]   
17. それ行けベイビー!! [2011] 
18. 月光の聖者達(ミスター・ムーンライト) [2011]
19. 明日へのマーチ  [2011] 
20. Let’s try again 〜kuwata keisuke ver.〜 [2011] 
21. 幸せのラストダンス [2012]
22. 100万年の幸せ!! [2012]
23. 愛しい人へ捧ぐ歌 [2012]
24. Yin Yang(イヤン) [2013]
25. 涙をぶっとばせ!! [2013]
26. ヨシ子さん [2016]
27. 君への手紙 [2016] 
28. 悪戯されて (New Arranged Version) [2016]
29. 若い広場 [2017]
30. オアシスと果樹園 [2017] 

初回限定盤 ボーナストラック
1. BAN BAN BAN / KUWATA BAND
2. スキップ・ビート (SKIPPED BEAT) / KUWATA BAND
3. MERRY X’MAS IN SUMMER / KUWATA BAND

サザンオールスターズ 公式サイト”sas-fan.net

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