Ivy to Fraudulent Game、メジャーリリース後の初ライブで見せた勝負とドラマ
「今でも未来でも過去でも全部一緒だけど、ステージの上では勝負だとしか思っていません」。Ivy to Fraudulent Game(アイヴィ・トゥ・フロウジュレント・ゲーム/以下、Ivy)が、12月7日に東京・渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブを開催した。Ivyは、2010年10月に群馬県で結成され、寺口宣明(Gt/Vo)、カワイリョウタロウ(Ba/Cho)、大島知起(Gt)、福島由也(Dr/Cho)の4人からなるロックバンド。全楽曲の作詞作曲は福島が担当している。12月6日に発売された1stアルバム『回転する』には、リード曲「革命」というタイトルにもあるように、“自分たちがシーンに対してこれから割り込んでいくという強い意志”と“自分たちの原点にしたい”という意味が含まれているという。(参考:Ivy to Fraudulent Gameが語る“音楽を描く”理由 「マイナスなものをプラスに変えられる」)
メジャー進出第一弾作品となる今作をリリースしてからは、初めてのライブとなったこの日。新曲「Contrast with your beauty.」「最低」「何処か / somewhere」「革命」を含む、全20曲が演奏された。イヤモニ(イヤーモニター)など初の試みもあり、彼らからは、新しいステージへの大きな一歩を踏みしめるような、程よい緊張感と高揚感が漂う。Ivyの過去・今・未来を示すと同時に、シーンに対して“革命”を起こすことを想起させる、そんなライブであった。
福島が今作を作る上で意識したという「ひとつの作品として成り立たせる」「一枚でドラマができるような意義がある流れ」が、今回のライブのセットリストからも感じられる。たとえば、序盤で披露された「水泡」からの「she see sea」の流れ。どちらも“水”をイメージさせる楽曲なだけに、照明も青と白を基調とした落ち着いた色合いに。そこに寺口の力強くも繊細な色気ある歌声が相まって、より幻想的な雰囲気を醸し出す。
「水泡」のイントロは音数的にはシンプルだが、ドラム、ベース、ギターの緻密なフレーズが複雑に絡み合い、聴けば聴くほど癖になる。そこから一気にサビに入り、<水にもならない/泡にもならないなら/水の泡になる事くらい恐れるな>という歌詞が、一つになった楽器の音と共にダイレクトに頭に響く。「水泡」が終わっても、興奮冷めやらぬ様子の観客たち。そんな熱気を帯びた会場に、静かな波の音が流れ込み、「she see sea」のイントロが始まった。たくさんの愛がこもった手拍子が会場を包み、彼らが奏でる音と一体化していく。寺口の切ない歌声にカワイの美しい高音のコーラスが重なり、感傷的なメロディにより拍車がかかる。先ほどまで笑顔だった観客の頬には涙が伝っていた。この2曲の流れだけでもすでに一つのドラマが生まれている。
また、しっとりとしたメロディに鼓動のような音が重なり、<Contrast with your beauty.>という言葉が鼓膜を揺らす。そして、<最低、最低って僕の気分のことじゃなくて>という歌詞が印象的な「最低」へ。この流れは今作のアルバムと同様であり、ライブでも“ドラマ性をもたせる”ことが一つのテーマになっている印象だ。
一曲一曲の演奏を重ねるごとに、ステージの上に立つ彼らからも、そしてステージの下にいる観客からも、内側から熱い感情が溢れ出して止まらない。どこまで高ぶっていくのだろうか。一曲ごとに、ここが限界なのではないかというラインを超えていく。
「水泡」「she see sea」と共に、1st Mini Album『行間にて』に収録されている「劣等」では、サビから間奏にかけて、カワイと大島がダイナミックに音をかき鳴らしながら、観客を煽る姿も。「止まりませんよ! もっと行こうか!」という寺口の言葉から、これまでのIvyの美しくも儚い楽曲とは印象が異なる新曲「革命」へ。どこか郷愁を感じさせる王道のポップミュージックだ。寺口もまた、攻撃的かつ艶っぽい雰囲気から一転し、優しく笑いながら観客に語りかけるように歌う。「こんな楽しそうなお前たちは見たことがない!」と嬉しそうな表情を見せる寺口に続いて、観客も歌詞を口ずさみ、大合唱が始まった。カワイ、大島、福島も楽しそうに音を紡いでいく。
MCで寺口が、会場をいっぱいに埋め尽くすファンたちに向かって「今日がメジャー、一発目のライブでございます。いつもと同じかと言われたら、多少の違いはあるけれど、今日も勝負しに来ました」と、過去も今も未来もライブにかける想いは変わらないことを明かす。続けて、「よく聞く、あいつらは変わった。なんか寂しい。何年も前から通ってたのに……」と、ファンがメジャーデビューに関して複雑な心境を抱えていることを推測し、「わかるよ」と呼びかける。「どう思うかわからないけど、俺たちの選んだ道です。俺たちの音楽が、皆さんの中に必要なくなった時、俺たちの負けです」と口にし、「一つだけ声を大にして言いたい……後悔させない」と力強く宣言した。
挑戦的な眼差しで会場を見渡す寺口は、「ずっとついてこい! 負ける気がしねぇ!」と叫び、そのまま「青写真」に。カワイのファズがかかったノイジーでアグレッシブなベースが鳴り響き、福島の繊細かつダイナミックな安定したドラムと、大島の軽快でシックなギターリフが重なり、激しく重厚感あるグルーヴが会場のボルテージをさらに上げていく。
「青写真」と同じく今作で再録した「アイドル」もまた荒々しさと切なさ、情緒性が増し、生まれ変わるというより、確実に楽曲が大きく成長し続けている。過去から今に繋いできたもの、そして未来への可能性。思わず鳥肌が立ち、体が動かずにはいられないほど圧倒される。まさに圧巻のパフォーマンス。寺口、カワイ、大島、福島の4人の表情は、どこか柔らかさを含んでおり、笑顔が見られる場面も多かった。心の底からライブを楽しんでいる様子だ。
寺口が、<これで良かったんだ>というサビの歌詞が歌えない時期があったと話す「故郷」では、哀愁漂うメロディと力強いバスドラにのせた、寺口の優しく温かい歌声が観客一人ひとりの胸に響いていく。心の底から歌いあげる<これで良かったんだ/きっときっと…/僕の横で眠る君を見て思う/そっとそっと…>というサビでは、会場からたくさんの手が上がる。手で埋め尽くされたその光景を前に、寺口が涙を堪える姿も。
そして、アンコールでも勢いが止まることなく、Ivyは最後まで全力で勝負を挑む。彼らがステージを後にしても、熱気と興奮冷めやらぬ会場で、観客たちはただ呆然と余韻に浸っていた。彼らが歩んできた過去、そして様々な選択を繰り返すことでメジャデビューを果たした今、たくさんの可能性に溢れている未来。我々観客もまた、まるで彼らと一緒に歩んできたような錯覚に陥り、彼らの原点と“革命”の始まりを目撃したようなドラマチックなライブであった。Ivy to Fraudulent Gameは、今後どのようなドラマを生み出していくのだろうか。
(文=戸塚安友奈/写真=Yusuke Satou)