柴 那典が選ぶ2017年洋楽ベスト10 死や鬱をテーマにしたラップミュージックの潮流

 Logic『Everybody』収録の「1-800-273-8255 ft. Alessia Cara, Khalid」も、自殺をテーマにした一曲。タイトルは自殺予防ライフラインの電話番号だ。リリックでは「死んでしまいたい」という自殺志願者の思いと相談オペレーターのメッセージが多重視点で描かれる。

 そして、これらの曲を聴いていて印象的なのは、ラップが「歌」としての役割を強く持っているということ。リズムやフロウ、リリックの内容はもちろんだが、メロディがとても重要な要素になっている。12月に出るはずだったアルバムが延期になっているのでベスト10の中には挙げられなかったが、下半期最大のヒット曲の一つであるポスト・マローンの「rockstar」もそう。ダークでメランコリックな曲調に乗せて、どこか抑鬱的なボーカルが響く。

 MigosやFutureなどヒップホップのシーンには他にもたくさんの印象的なアルバムがあったのだけれど、個人的なアンテナが強く反応したのは、やはりこういう「歌としての強度」を持ったラップミュージックだった。昨年の年間ベスト企画の原稿(柴 那典が選ぶ2016年洋楽ベスト10 ポップ・ミュージックの“基準”が変わったシーン総括)でも「なんだかんだ言って、僕が好きなのは、音楽に含有されるセンチメントやメロウネスの成分」と書いているので、そういう好みのせいもあるのかもしれない。

 センチメントという意味では、London GrammarとTuvabandの新譜もとてもよかった。London Grammarはハンナ・リードを中心にしたイギリス・ノッティンガム出身の3人組。Tuvabandはノルウェーの2人組。どちらも悲哀に満ちたメロディを透明感ある女性ボーカルが歌い上げるアルバムだ。相変わらず僕はこういうものにとても弱い。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

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