柴 那典が選ぶ2016年洋楽ベスト10 ポップ・ミュージックの“基準”が変わったシーン総括

1.Francis and the lights『Farewell,starlight!』
2.Porter Robinson & Madeon『Shelter』
3.Frank Ocean『Blonde』
4.Bon Iver『22, A Million』
5.Chance the Rapper『Coloring Book』
6.ANOHNI『Hopelessness』
7.Japanese Wallpaper『Japanese Wallpaper』
8.Beyonce『Lemonade』
9.David Bowie『★』
10.The Japanese House『Swim Against the Tide』

 雑誌『ミュージック・マガジン』(ミュージック・マガジン)や雑誌『MUSICA』(FACT)にも年間ベスト原稿を寄稿しているので、それとの差別化ということもあり、リアルサウンドでは海外アーティストの作品に絞って選出することにした。

 たぶん他の人も言ってるだろうけれど、2016年は地殻変動の一年だったと思う。単純に、沢山の素晴らしい作品、重要な作品が相次いで世に放たれた。ポップ・ミュージックの“基準”のようなものが塗り替わっていくのをリアルタイムで目撃しているようで、ワクワクする気持ちだった。

 構造的な話をすると、おそらく、この背景には2015年に世界全体での音楽ソフト市場が10数年ぶりにプラスになったことがあると思っている。サブスクリプション型のストリーミングサービスで音楽を聴くというのが一つのデファクトスタンダードになった。それが音楽市場全体の収益を押し上げた。

 CDやダウンロードの時代は「100万人が1回聴く曲」の方が「1万人が100回聴く曲」よりレーベルやアーティストに100倍の利益をもたらした。が、ストリーミングの時代には両者は等価である。というか先を見通せば後者の方が価値が高い。つまり、アーキテクチャが変わったことにより、インスタントな流行よりも、深く刺さる“質”のほうが重視されるようになった。アーティストもそのことをちゃんと理解している。そういうことだと思う。

 そして、もうひとつ刺激的なのは、2016年の傑作群には、ロック、R&B、ヒップホップのようなジャンルの枠組みが溶けてきていること。才能と才能が点で結びつきあうようなフィーチャリングが各所でなされている。ビヨンセやカニエ・ウェストのような大物も、Bon Iverも、チャンス・ザ・ラッパーも、フランク・オーシャンも、それぞれの作品を聴けば“共振”しているのが感じられる。

 で、僕としては、Francis and the lightsが発明したボーカル・エフェクト「プリズマイザー」というテクノロジーがその中心にあったように感じた。彼自身も引っ張りだこになっていた。だから1位は「最重要人物」として彼の作品を選んだ。

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