ZEPPET STORE 木村世治が語る“音楽との向き合い方”の変化「震災以降、ファンとの交流が増えた」
「ミュージシャンって、わがままにできる環境を作るのが一番大切」
ーーZEPPET STOREの再結成は、震災がきっかけでもあったわけですが、福島県いわき市出身でもある木村さんは、震災を機にモチベーションや書く内容が変わったということがあります?
木村:震災が起きてすぐ、会場限定CDやチャリティCDを作ったりしていました。ただ、そうやって復興支援への意識を高めていった結果、気づけば「書かなきゃいけない」というか……。おこがましいんですが「元気付けなければ」という、義務感すらも感じるようになってしまった時期があって。もちろん、今までやってきた支援活動は、全然間違ったとは思ってなかったですけど、目的と手段が逆転してしまっては本末転倒なんじゃないかと。
ーーなるほど。
木村:で、またしばらくして九州でも地震があったじゃないですか。その時も、「地元で震災があった時はすぐ動いたのに、九州では動かない自分」というのはどうしても許せなくて、それでまたチャリティCDを作ったりして。もともと、そういうことをやり慣れていない人間がやり始めたことなので、うーん、なんて言ったらいいんだろう……。
ーーあくまでも「身の丈」でやるべきはずのチャリティ活動に、あまりにも打ち込み過ぎてしまったと。
木村:そうなんです。結果、精神的にも金銭的にも辛くなってしまった時期があったんですよね。それに気づいてからは、復興支援への意識は持ちつつ、実際の活動に関してはちゃんと自分の距離感を考えなければいけないということを考えるようになりました。震災のことがあるまでは、音楽を通じて社会的にコミットしようなんて意識は全くなかったんですけどね。ZEPPET STOREの解散直前なんて、ファンとの距離もすごくあったし、自分たちからコミュニケーションを遮断しているところもありましたから、そこは大きく変わりましたね。
ーー震災も一つの大きなきっかけだったのかもしれませんが、年齢的にもそういうことを考える時期に差し掛かってきたのかもしれないですね。今回のクラウドファンディングのような、ファンと直接的に関わるプロジェクトに抵抗がなくなったのも、震災のことがあったり、50才という年齢を迎えたりしたことが、影響しているのではないでしょうか。
木村:確かにそれはあるかもしれないです。震災以降、ファンとのコミュニケーションがすごく増えましたから。被災地へ歌いにいけば、私たちのことを知らない地元の人たちにも逆に「頑張ってくださいね!」なんて声をかけてもらったりもしましたし。ファンとの交流も増えたし、ブログで自分の考えを発信するということも、再結成してからですからね。例えば今回も、新曲を作ってアップすると、反応がたくさん返ってくるのが楽しい。そもそも、この曲をリード曲にしたのも、ライブでやった時にファンからの反応がすごく良かったからなんです。
ーーでは、具体的にCAMPFIREを使って今回、どんなことをしたいと思っていますか?
木村:まず、自分がやりたいことを箇条書きにしてみたんですよ。例えば、グッズ。GUNIW TOOLSの古川ともくんのデザインがものすごく好きで、ダメ元で頼んでみたところ二つ返事でOKをもらって、それを今作ってもらっています。それからゲストミュージシャンですね。単に「尊敬している人」というだけでなく、プライベートで一緒に飲みに行くなど(笑)、個人的な付き合いのある人にお願いしたかった。PATAさんも、ご自宅にお邪魔したこともあって、それでお願いしたところ「待ってたよ」って言ってもらえて。ありがたいですよね。他にも、まだ発表になっていない人でも色々オファーしているところです。
ーーまさに、木村さんの50歳のバースデーをみんなで祝うアルバム、という感じですね(笑)。制作過程をオープンにしているのも、すごくユニークです。
木村:まずはYouTubeに1曲だけアップして、そこにPATAさんの名前があったり、アルバムタイトルがこれから決まったり。今後もアートワークやPVなど、出来上がるたびに情報を発信していこうと思っていて。そうやって、作っている過程を見せることで、ファンも一緒になって作っている気分を味わってもらえたら嬉しいなと思っているんですよね。
ーーちなみにリターンの内容ですが、20年以上前の衣装なども入っていて、物持ちの良さにびっくりしました。
木村:はははは。ジャケット撮影で使った衣装などがまだ残っていて。それを今回出すことにしました。リターン内容を考えるときは、「自分が好きなミュージシャンに何をもらえたら嬉しいかな」っていうのを想像しましたね。クラウドファンディングって、まだまだ日本では根付いていないし、「資金集め」ということであまりいい印象を持っていない人もまだいるのかなって思うのですが、そこを少しでも変えることができたらいいなと思っています。今話したように、ファンとのコミュニケーションの場としても有効ですしね。
ーークラウドファンディングやCAMPFIREの今後の可能性については、どのようにお考えですか。
木村:ある程度キャリアのあるミュージシャンが、クラウドファンディングを使っている例って、まだ少ないと思うんですよ。私の知っている限りでは、KEMURIやクラムボンくらいなのかなと。そんな中で、私がやっているプロジェクトも、一つの好例になればいいなと思っています。ミュージシャンって、やりたいことをやりたいように、わがままにできる環境を作るのが、一番大切じゃないですか。パソコンで音楽が作れるようになり、制作面での自由は広がったと思うんですけど、「それをどれだけ広げていくか」となった時に、CAMPFIREというのは、すごくいい「ツール」なんじゃないかと思っています。
ーーでは最後に、50才を迎えた木村さんの今後の展望をお聞かせください。
木村:まず、一番気をつけなければならないのは体力ですよね。私は弾き語りのライブをやり始めて結構経つんですが、ギター1本でどこでも回れる体力と実力はつけることができたと思っていて、これをもっと突き詰めていきたいです。
最近は、ライブが本当に楽しい。お客さんの顔を見ながら演奏して歌っていると、「この人たちと一緒にライブを作っているんだな」と思える瞬間があるんです。それに、僕の歌を聴いて泣いたり笑ったりしている顔が見えるとグッとくるというか。ライブって、本当にコミュニケーションなのだなって思いますね。
(取材・文=黒田隆憲/撮影=はぎひさこ)
■プロジェクト概要
『木村世治New Albumプロジェクト』
期間:2017年11月30日(木) ~2018年1月30日(火)
URL:https://camp-fire.jp/projects/view/45661
※リターンなどの詳細は上記URLにて