ZEPPET STORE 木村世治が語る“音楽との向き合い方”の変化「震災以降、ファンとの交流が増えた」

木村世治が語る“音楽との向き合い方”の変化

 1990年代初頭に活動をスタートし、一度は解散するものの2011年に再結成を果たして今なおコンスタントに作品を作り続けているオルタナティブロックバンド、ZEPPET STORE。そのフロントマンである木村世治が現在、前作『I(アイ)』よりおよそ6年ぶりのソロアルバムをレコーディングしている。すでに先行公開されている楽曲「not fade away」は、ギターにPATA(X JAPAN/Ra:IN)、ベースにOKP-STAR(Aqua Timez)を迎えて疾走感溢れるギターロックを展開。ヒネリの効いたコード進行やメロディなど木村節も健在だ。

 なお、このアルバムの制作にあたって木村は、クラウドファンディングによるプロジェクトを立ち上げ、そこで集まった資金を元にPVやグッズなどの制作も計画中だという。リターン内容も、ステージ衣装や特製DVDなどとことんファン目線に立ったものになっている。

 今年50才を迎えた木村が今回、クラウドファンディングを利用しようと思ったのは何故か。震災以降、復興支援など積極的に行ってきた彼は今、音楽やファンとどのように向き合っているのだろうか。(黒田隆憲)

 「新しい音楽も古い音楽も、毎日のように漁って聴いている」

ーー現在、木村さんは自身のレーベル<SCARLET recordings>を立ち上げ、マネージメントやライブ制作、通販やネット配信など、その全てを自分一人でやっているそうですが、そうした活動にシフトした経緯をまずは教えてもらえますか?

木村:私は1990年代初めからZEPPET STOREというバンドをやりつつ、並行してソロ活動もしていたのですが、以前から「レーベルを立ち上げたい」というよりも「自分が自由に活動できる空間を作りたい」という気持ちがあったんです。例えば、ライブ会場限定のCDを自分で制作するとか。今って、デスクトップで誰でも音楽を作れる時代ですよね。だから、それを活かさない手はないなと。幸い僕は、ドラムから楽器をマスターしていてギターもベースも一通り演奏できる。これまでソロでは1人多重録音も何度かやってきていて。レーベル契約しているZEPPET STOREとは違い、完全に自分でコントロールできるソロに関しては、自分でレーベルを立ち上げてしまうのがベストかなと思ったわけです。

ーーやはり、拘束されないというのが最大のメリットでしょうか。

木村:ええ。おそらくデメリットの方が、みなさん気になるところなのかなと思うんですけど、やはりファン以外に広がっていかないというジレンマはあります。

ーーファンの方はこまめに情報をチェックしてくれるし、木村さんの活動内容も把握しているけど、不特定多数に向けての広告を打たないぶん、新規のファン獲得などは難しそうですよね。

木村:実は、クラウドファンディングをやろうと思ったのもそこが大きくて。今回のプロジェクトを通じて、私のファン以外の人にもこういう活動が広まっていけばいいなというのが動機の一つでもありました。それと、ソロアルバムを作り始めたら、やりたいことが増えてしまって頭を抱えていたところがあったんですよね。

ーーというのは?

木村:さっきも言ったように、自分のソロはhurdy gurdy名義も含めてミックス以外は全て自分でやっていたのですが、今回はいろんなミュージシャンと共演したいなと思ったんですよ。それはきっと、50才という節目を迎えたことがすごく大きかった気がします。これまでライブ会場限定のシングルなどは、コンスタントに色々リリースしてきたのですが、フルアルバムでのリリースは6年ぶりになるんですね。ただ、40代後半になった頃から「50才の時には絶対にアルバムを出したい」ってずっと思ってきたんです。本当は9月23日の、自分の誕生日にリリースできたら一番美しかったんですけどね(笑)。さっきも言ったように、作っているうちやりたいアイデアがどんどん溢れてきてしまったというか。

ーー実際の制作はどのように進めていきました?

木村:レコーディングのプロセス自体は、今までと特に変わっていなくて。ただ、『I』の時は、当時ライブのサポートをしてくれていたメンバーや、LÄ-PPISCHのMAGUMIさんなどに参加してもらったのですが、今回はまず、久しぶりに自分でドラムをしっかり叩きたいというのがありましたね。

ーー今はどのくらい曲はできているのですか?

木村:曲自体はもう、ほとんど出来上がっています。アルバムは全部で11曲収録される予定です。

ーーブログを読むと、「オルタナで、ポップで、もちろんロックで日本語曲も英語曲もあって、攻めつつふんわりしつつ、どんな日常でもす〜っと入り込んでいけるような、そんなアルバムを作りたい」とありました。そういえば以前『Sleep Tight Fellows』(2002年)リリース時にインタビューした時も「ビールを飲む時に聴きたくなるようなアルバムが作りたい」とおっしゃっていたんですよ。

木村:自分の音楽の聴き方が、おそらくそんな感じなんでしょうね。例えば、「風呂入る時に聴きたい音楽」とか、今日ここまで来る移動中に聞く音楽とか、シチュエーションによって聴きたい音楽が変わる。で、私が今作っている音楽が、ジャンルやスタイルでうまくカテゴライズしにくいというか。例えば今回、先行配信した「not fade away」とは真逆の、ピアノの弾き語りも入っていたりするので、どれか1曲は日常のいろんなシーンに、すっと入っていけるんじゃないかなと思うんです。

ーーなるほど。

木村:あと、私はThe Beatlesが好きなんですが、彼らの後期の楽曲もそんな感じがしていて。やりたいことを好き勝手にやって、それをそのまま詰め込んだ、みたいな(笑)。

ーー『White Album』などはまさにそうですよね。

木村:そうそう。そういう感じが、自分の音楽の原体験なんでしょうね。あとは、ZEPPET STOREを組んだ頃に影響を受けた、シューゲイザーやニューウェーブ、そういった影響が未だに自分の中に根付いているので、そこは変わらず引き継いでいきたいなと思います。

ーーThe Beatlesとシューゲイザーといえば、ZEPPET STOREがまだインディーで活動していた頃、木村さんが並行して行なっていたソロプロジェクト、hurdy gurdyのサウンドが、中期ビートルズを彷彿とさせるものだったのが非常に印象に残っています。

木村:シューゲイザーの中では、例えばMy Bloody Valentine辺りは特にそうなんですけど、彼らの音楽からギターの渦を取り除いて、コード進行と歌メロだけにすると、ものすごくフォーキーなんです。それに気付くまで時間がかかったんですが、マイブラの何が一番好きかというと、轟音ギターよりも前に、彼らの作るメロディなんですよね。それで、初めてマイブラをアコギで弾いてみたところ、「おお、ビートルズと変わんねえじゃん!」ってなった。

ーーマイブラのリーダー、ケヴィン・シールズの作風に共鳴するところもありますか?

木村:私は、曲作りではほぼアコギを使っているんですよ、どんな激しい曲を作るときも。弾き語りでも歌えるメロディにしたいというのもあるし、ひょっとしたらマイブラも、そうやって曲を作っているんじゃないかなって勝手に想像したりもして(笑)。

ーー以前、ビリンダ・ブッチャー(My Bloody Valentine)のインタビューを読んだのですが、彼女とケヴィンが恋人同士だった頃、家でアコギを深夜に弾きながら彼が作っていたのが「You Made Me Realise」だったそうです。まさに木村さんの想像通りですよね。それに、ケヴィンのもっとも好きなバンドはThe Beatlesですし。

木村:あ、本当ですか。やっぱりね。私も曲作りをしていて、行き詰まったときなどに聞いていたのはThe Beatlesでしたからね。曲を作り始めた頃、The Beatlesの「歌本」というか、全曲の歌詞とコード進行が掲載されたスコア本を持っていて。まだThe Beatlesを全曲制覇してなかった頃に、その本のページを適当に開き、掲載されているThe Beatlesの知らない曲のコードを弾きながら、そこに自分勝手にオリジナルのメロディを乗せながら曲を作っていた時期があります。それが、自分の曲作りの基礎になっているというか、すごくいい練習になったんですよね。

ーーすごく興味深い話です。ZEPPET STOREの時と、木村さんのソロの時では楽曲の作り方に違いはありますか?

木村:曲作りに関してはほとんど一緒ですが、演奏の仕方や録音の仕方が全く違いますね。例えば、ZEPPET STOREの場合はメンバー全員でスタジオに入って、「せーの」でいっぺんにレコーディングすることもできますが、ソロの場合は一人なのでそれはできない。どうやるかというと、まず自宅で制作したデモ音源に入っている、仮のギターや仮のボーカルを聴きながら自分でドラムを叩くんです。で、今度はそれを聴きながら、仮のギターや仮のボーカルを本チャンに差し替えていく。つまり圧倒的に手間暇がかかるわけですよね。

ーーZEPPET STOREの場合はバンドのグルーヴが、ソロの場合は木村さんのグルーヴが出るから、そういう意味では全く違うものになりそうですよね。

木村:しかも、ドラムは人により個性が全く違いますからね。私の叩くドラムは、長年叩いてきたとはいえ専門ではないので、やっぱりモタツキとかヨレとかがあったりするわけです(笑)。それも実は、「味」になっているというか。なるべく修正などせず、そのまま本チャンでも生かすようにしています。

ーーそういうモタツキやヨレが、曲の魅力になることって結構ありますよね。

木村:まさにそうですね(笑)。

ーー木村さんはもう、20年以上曲を書き続けているわけじゃないですか。そのモチベーションはどこから来るのでしょうか。

木村:音楽が、未だに大好きなんですよね。新しい音楽も古い音楽も、毎日のように漁って聴いているし、それで面白い新人バンドとか見つけると、ものすごく盛り上がる。で、そこに触発されて曲を書いている自分がいて。もちろん「悔しい」っていう気持ちもそこにはあるのだと思います。「こんなカッコいいバンドが出てきちゃったよ。くそ、俺も作ってやる」と思ってみたり(笑)。

ーーちなみに、最近のバンドでインスピレーションを受けた音楽というと?

木村:Foster The Peopleの新作『Scared Hearts Club』はすごく良かったですね。Phoenixの新作『Ti Amo』も。後は、WhitneyやThe Lemon Twigsも好き。特にThe Lemon Twigsは、あんな若い兄弟2人があんなことやっちゃうっていうのに驚かされました。恐ろしいですよね(笑)。とにかく、みんな圧倒的に演奏が上手い。そこは私たちの頃とは全く違いますね。

ーー1990年代は、「演奏が上手いことはカッコ悪いことだ」という風潮もありましたしね(笑)。歌詞はどうですか。歌いたいこと、伝えたいことは50才になって変わりました?

木村:ええと、30代の半ばくらいに書いたZEPPET STOREのラストシングル曲「SEEK OUT」というラブソングがあるのですが、それが自分にとっての一つの到達点だったというか。要は、“死ぬ前に思うのは君だ”っていう内容の歌詞が書けたんです。そこで、自分が一つ答えを出せたような気がして、ラブソングを書く時の目線がぐっと変わったのを覚えていますね。ちょっと物事を俯瞰に見て、抽象的な表現をするようになっていくというか。

ーーそれは今でも続いていますか?

木村:続いていますね。若い頃は、年をとるにつれてもっとリアリスティックな歌詞を書くようになっていくものなのかと思っていたのですが、全く違いました。むしろ若い頃に回帰していっています。ただ、例えば今回、先行曲「not fade away」の中で、“音楽は消えていかない”という個人的な意思表明ができたのは、ちょっと嬉しかったですね。「あ、俺はまだまだこういう楽曲が書けるんだ」って。

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