和楽器バンド、世界的に評価される理由は? 和と洋を掛け合わせた無二のクリエイティブを分析

和楽器バンド、世界的に評価される理由は?

 和楽器と洋楽器の融合はこれまでにもなかったわけではない。しかし、2013年の結成以来、8人組ロックバンド・和楽器バンドの人気が上昇の一途を辿っているのは何故だろう。

 まず、挙げられるのは和楽器と洋楽器の“完全なる”融合だ。和楽器バンドは8人のメンバー全員が主役であり、過去にも存在した“和楽器を尊重しすぎた”グループとその点において大きく異なる。さらに、数々の詩吟コンクールで1位を獲得し、師範の資格を持つボーカル鈴華ゆう子を筆頭に、卓越した技術を誇る(それでいて発想も柔軟な)プレイヤーがずらりと揃っている点も大きい。乱暴な言い方にはなるが、バンド結成の時点である程度の成功を約束されていたも同然である。

 しかも、バンドの取っ掛かりとして採用したアイデアが素晴らしかった。ニコニコ動画で活躍するミュージシャンが多かったことから、ボカロ楽曲のカバーから活動をスタートさせたのである。たしかに、尺八・箏・三味線・和太鼓・ギター・ベース・ドラムという他に類を見ない楽器編成でいきなりオリジナル曲に取り掛かるのは至難の業。活動を軌道に乗せ、和楽器に興味がないリスナーの耳をもとらえるという意味で最上の方法を彼らはとったのだ。

 結果として、2014年1月に渋谷club asiaで行った初のワンマンライブ以降、動員もうなぎ登り。大新年会と呼ばれる新年恒例ライブは、前述のasia以降、2015年渋谷公会堂、2016年日本武道館、2017年東京体育館2デイズと着実に規模を拡大し、来年1月27日には横浜アリーナの舞台に立つことが決まっている。優れた演奏と徹底的にこだわり抜いた演出によって、老若男女に愛されるステージへと磨き上げていったのだ。

 彼らの成功の理由は楽曲面だけに留まらない。ビジュアルである。現在7000万回再生を記録する「千本桜」をはじめ、彼らのMVは国内に留まらず、海外のリスナーからも熱い視線が向けられている。和楽器バンドは初制作曲「六兆年と一夜物語」のときから映像にこだわってきた。今年9月発表の「雨のち感情論」がCDリリースされるまで、彼らのシングル作品はDVDのみだったほど。そこで、彼らの代表作と言えるMVをいくつか紹介しよう。

和楽器バンド「暁ノ糸」MV

 まずは、「暁ノ糸」。これは2015年リリースのフルアルバム『八奏絵巻』に先行して発表された作品だ。ボーカルパートが少なく、アルバムの先行曲としては変則的な構成だが、これは“映像化したときに8人全員が主役になれるから”という理由で選ばれている。それを踏まえた上で作品を見てみると、たしかに8人の魅力が均等かつ、存分に発揮されていて、和楽器バンドのなんたるかを知るには最も適していると言える。しかも、最新の映像技術を駆使した映像の美しさよ。和服をモチーフにした衣装をまとった眉目秀麗なメンバーの存在感に決して劣らない迫力で、バンドの世界観を見事に表している。

和楽器バンド「戦-ikusa-」MV

 続いては、「戦-ikusa-」。これも「暁ノ糸」同様、『八奏絵巻』収録のシングル曲だ。映像美にこだわった「暁ノ糸」とは異なり、ここではぐるりと円になって演奏を展開する8人の立ち姿に鳥肌が立つ。ここまで見てもらえれば分かるように、和楽器バンドには美男美女が揃っている上にこの衣装だ。はっきり言って、彼らの演奏シーンをとらえるだけでも映像作品としては成立するのである。しかし、当然それだけでは終わらない。ここではメンバー自身による殺陣が注目ポイント。MVにおけるバンドメンバーの演技というのは見ていてこっ恥ずかしくなることが多いが、彼らの場合は違う。同曲がアニメ『戦国無双』の主題歌であることに恥じない本格的な戦闘シーンで魅了する。ちなみに、ここでは披露されていないが、ボーカルの鈴華は5歳の頃からの剣舞経験者だ。

和楽器バンド「シンクロニシティ」MV

 最後は11月29日に発売される初のベストコレクションアルバム『軌跡 BEST COLLECTION+』収録の新曲「シンクロニシティ」だ。ジャズポップスというこれまでの和楽器バンドになかった新規路線は、すでに多くのファンから驚きと賞賛をもって受け入れられている。それに伴い、MVもこれまでになかった大正モダンなコンセプトで制作された。2人の男女を主役に据えた作品で、黒を基調としたメンバーの衣装がセピアなダンスホールに映える。しかし、“大正”とは書いたが、特定の場所をイメージさせるものはここにはひとつとしてない。

 和楽器バンドの映像作品全体に言えることだが、現世から切り離された世界観が設定されていることが多く、「シンクロニシティ」に関しても、オープンニングで街の引き画が挿入されるが、そこが日本なのかどうかすらよくわからないようになっている。これこそがみんなに愛される“和楽器バンドの世界”なのだ。

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