パスピエが示した“この先”の可能性 新旧作つなげた東名阪ツアーを見て

パスピエが示した“この先”の可能性

 最新ミニアルバム『OTONARIさん』(10月18日リリース)を携えた東名阪ツアー『パスピエ TOUR 2017“OTONARIさんのONOMIMONO”』の初日、東京キネマ倶楽部公演。新作『OTONARIさん』とメジャーデビュー作『ONOMIMONO』(2012年)を軸にした今回のツアーでパスピエは、“4人体制のパスピエ”のライブの在り方を明確に提示。過去と現在、そして“これから”を生々しく結びつけるステージを見せてくれた。

 まずは2017年のパスピエの動きを振り返っておきたい。1月に4thアルバム『&DNA』を発表。さらにキャリア最大の全国ツアー『パスピエ TOUR 2017“DANDANANDDNA”』を成功させたが、ツアー終了後にオリジナルメンバーのやおたくや(Dr)が脱退し、パスピエは4人編成のバンドとして新たなスタートを切った。新体制になって最初の作品となる『OTONARIさん』にはドラマーとしてBOBO、佐藤謙介が参加。成田ハネダ(Key)がトラックメイクを手がけた「(dis)communication」が収録されるなど、新機軸を打ち出した作品となった。そして今回のツアーの注目点は「新作『OTONARIさん』の楽曲がライブでどう表現されるか」「『ONOMIMONO』に収録された代表曲がどう変化するか」の2点。大きなターニングポイントを迎えた4人が、サポートドラマーの伊藤大助(クラムボン)とともに、このツアーで何を見せてくれるのか……期待と緊張がせめぎ合うなかライブはスタートした。

大胡田なつき(Vo)

 この日のライブは2部構成。前半は「デモクラシークレット」「脳内戦争」などミニアルバム『ONOMIMONO』の収録曲を中心にしたラインナップ。3曲目で早くも「チャイナタウン」(メジャーデビュー前後のライブにおける最大のアンセム)が披露されるなど、初期の代表曲が次々と演奏された。伊藤大助を交えたアンサンブルも文句なく素晴らしい。最初の数曲ではバンド全体に緊張が感じられ、三澤勝洸(Gt)、露崎義邦(Ba)、伊藤がグルーヴを確かめ合うように目を合わせる場面も見られたが、演奏は終始安定していて、「トロイメライ」「気象予報士の憂鬱」といった初期の名曲に新たな息吹を与えていた。“クラシックの印象派、ニューウェーブ経由のロック、ポップスの融合”というコンセプトを掲げ、成田ハネダを中心に結成されたパスピエ。高度な音楽理論に裏付けられた楽曲、メンバ-の卓越した演奏能力を活かしたバンドサウンド、大胡田なつき(Vo)の創造性豊かな歌詞の世界を明確に打ち出した『ONOMIMONO』は、彼らの最初の代表作と言っていい。4人体制となったパスピエが、過去の楽曲の良さを再確認し、そのポテンシャルをさらに引き上げていることを確認できたのは、今回のツアーの収穫の一つだった。

成田ハネダ(Key)

 ライブ前半におけるピークは、ふだんは終盤やアンコールで演奏されることが多い人気曲「最終電車」。成田がイントロを弾いた瞬間「おおっ」という声が上がり、フロアの熱気が一気に上昇していく。緻密なアレンジメントと心地よい高揚感、恋愛の切なさを映像的に描き出す歌詞が共存するこの曲を“2017年のパスピエ”が表現するシーンは、まちがいなくこの日のライブの最初のハイライト。赤色の衣装を身にまとった大胡田の開放的なボーカルも印象的だった。

 大胡田がいったんステージを去り、楽器隊はインストナンバーを演奏。ブルーの衣装に着替えた大胡田が戻ると、新作『OTONARIさん』を中心にした2部がスタートする。抒情的なメロディラインを軸にした「あかつき」、シンセのシーケンスを交えて披露された「(dis)communication」などによって、最新型のパスピエがリアルに立ち上がる。スタジオでのセッションではなく、メンバー間で楽曲データをやりとりしながら制作された『OTONARIさん』。そのインタビューのなかで成田は「データのやり取りで制作すると、ソリッドになるんですよね。バンド全体で『せーの』でやると、いい意味で雑味もあって。それを含めて『いいね』という判断になるんですけど、今回はできる限り細かく作り上げたので」とコメントしていたが、精密さを増したサウンドと斬新なアイデアが共存する新曲は、ライブという場所で空気に触れることで、さらに多彩な魅力を放っていた。

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