鬼束ちひろは“終わらない旅をしている” ツアー完走で実感した唯一無二の表現

鬼束ちひろ『シンドローム』ツアーレポ

 鬼束ちひろの全国ツアー『鬼束ちひろ コンサートツアー『シンドローム』』が、7月18日のZepp DiverCity公演をもって終幕した。バンドセットによる8公演と、ピアノと彼女だけによる特別追加2公演、合わせて9都市10公演だった。

 鬼束が全国ツアーを行なったのは、(鬼束ちひろ & BILLYS SANDWITCHESとしての2014年のツアーを除いて)約5年半ぶり。2011年11月から行われた『鬼束ちひろ CONCERT TOUR 2011「HOTEL MURDERESS OF ARIZONA ACOUSTIC SHOW」』以来となった。が、2011年のそれはタイトルの通りアコースティックツアーで、全3公演のみ。バンドありの全国ツアーは、2002年以来、実に15年ぶりだ。

 2002年といえば、デビューして2年目の年。2001年の初ツアーに続き、その2002年3月から2度目のツアー『CHIHIRO ONITSUKA 'LIVE VIBE' 2002』を渋谷公会堂でスタートさせたがしかし、4月の初頭に過労による急性腸炎を発症し、大阪と仙台の2公演を延期。ツアー終了後は数カ月の休養をとり、復帰ライブとして挑んだのが、ファンの間で「伝説の」と言われるあの圧倒的な日本武道館公演『CHIHIRO ONITSUKA ULTIMATE CRASH '02』だった。

 そんな2002年以降、鬼束は1度もバンドセットでのツアーをやらなかった。やれなかった。1公演に全身全霊を注ぐ彼女にとって、それを連続的に行わねばならない全国ツアーは肉体的にも精神的にもハードすぎたのだろうし、もしかしたら2002年のツアーがある種のトラウマになっていたところもあったかもしれない(2008年に予定されていた3度目のツアーも体調不良で中止となった)。恐らくツアーというもの自体に対して彼女は恐怖を抱いていたのだろう。

 ある時期から長きに亘って、活動のあり方と表現のあり方、及び声の出方が安定を失っていた鬼束だったが、2016年には驚くほどに復調。11月4日の中野サンプラザホール公演では圧巻のパフォーマンスを見せ、今年2月に6年ぶりとなるオリジナルアルバム『シンドローム』も発表した。それは初期の楽曲群を彷彿させると同時に、ここ数年の迷走と葛藤を潜り抜けたからこそ獲得できたのであろう説得力と深みも感じさせる作品だった。そうして“限りなく完全復活に近い状態”にまで戻ったことは、ライブアルバム『Tiny Screams』の発売にあわせてリアルサウンドに寄せた原稿の通りだ。

 その文の終わりで自分は今回の全国ツアーにふれ、「今の彼女が最良の状態にあることは間違いない。昨年11月の公演からのさらなる進化(深化)に期待したい。」と結んだ。ライブ盤『Tiny Screams』を聴けばわかる通り、昨年11月の中野サンプラザ公演は復活を強く印象付けたものであり、それを受けて久々の全国ツアーを決意したからには、それ相応の心構えとコンディション、意識と気力の持ち方で彼女は臨むに違いないと考えたからだ。が、正直に書けばやはり不安がないわけではなかった。4月に始まり約3カ月で10公演。公演ごとの間はそこそこあいているとはいえ、気力と体調をしっかりキープしたまま完走しきれるのかどうか。そればかりは神のみぞ知るところだった。

 『鬼束ちひろ コンサートツアー『シンドローム』』。自分は7月12日に中野サンプラザホールで行われたバンドセットにおける最終公演と、7月18日にZepp DiverCityで行なわれたアコースティックセットによる特別追加公演(全日程のファイナル)を観た。両日の模様を振り返ってみよう。

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