市川由紀乃、闘病の苦難を乗り越えて向き直す人生と音楽 中森明菜や矢沢永吉から学んだこと

1993年、17歳の時にシングル「おんなの祭り」でデビューした市川由紀乃。これまでに数々の音楽賞などを受賞してきた実力派の演歌歌手でありながら、コンサートではポップスなど幅広いジャンルの楽曲をカバーしたり、お笑い好きが高じて吉本新喜劇にゲスト出演するなど、多彩な魅力と才能を輝かせながら活動を続けている。今年は、デビュー30周年のタイミングから本格始動した<作詞:松井五郎、作曲: 幸 耕平、編曲:佐藤和豊>という鉄壁の制作チームによる待望の新曲「ちりぬるを」をリリース。楽曲についてはもちろん、2024年の卵巣がん治療という闘病生活の中で向き合った自分自身のことや音楽に対する思いなどをうかがった。(山田邦子)
歌い続ける女性の強さや弱さ、市川由紀乃が考える“演歌”とは?

ーー前回のインタビューは、デビュー30周年のタイミングでした。あらためて、30年以上好きな歌を歌い続けていらっしゃる今のお気持ちはいかがですか。
市川由紀乃(以下、市川):30年以上この仕事を続けさせてもらっているって、自分でも信じられない時があります。振り返ると、私がデビューした時は今と違って各レコード会社さんから何人もデビューしていた時代だったんですが、私はあまり期待されていないデビューだったんですよ。だけど当時の事務所の社長は、「お前の場合はすぐテレビなどには出たりできないけど、寝なし草にならないように地道にキャンペーンをやって、根を張って、長く歌い続けていける歌手になれるように頑張っていこう」っておっしゃっていて。ここまで本当にひとつひとつの積み重ねだったなと思いますし、改めて、デビュー当時から大切なことをやらせていただいていたんだなと思います。
ーーデビュー当時から応援してくださるファンの皆さんの存在も大きかったんじゃないかと思います。
市川:それは大きいですね。デビュー当時からずっと応援してくださっている方もいらっしゃいますし、これだけ月日が流れると、応援してくださった方との別れというのも経験したりします。お亡くなりになられたお父さまが応援していたからって、その意思を継いでお嬢様や奥様が応援してくださったり。また私の場合は一時期歌の活動をやめていたり、病気で休業したりしていたんですが、それをきっかけに知ってくださった方が応援してくださったりという出会いもありました。ファンの皆さまの支えがあってこそ、活動ができていると思います。
ーー今出会いというお言葉がありましたが、作詞家の松井五郎さんとの出会いも大きかったのではないでしょうか。
市川:大きかったですね。私は子供の頃からアイドルの方なども大好きだったんですけど、たとえば工藤静香さんとか、安全地帯さんとか「この歌いいな」と思ったらまず作家の先生のお名前を見ていたんですよ。
ーーずいぶん大人びた聴き方をされていたんですね。
市川:あの詞を書かれた先生が今回はこのアイドルの方のこの詞を書かれているとか、この先生はこういう歌の詞も書かれているんだとか、先生のお顔は存じ上げなくてもお名前をよく見ていたんです。松井五郎先生の楽曲もたくさん聴かせていただいていたので、自分の30周年の時に、私にとって第二の師匠である幸耕平先生から「今度は松井五郎先生にお願いしようと思っている」っていう話を聞いた時は本当に嬉しかったですし、その出会いを経て出来上がってきた作品が「花わずらい」だったのも本当に嬉しかったです。

ーー現在発売されている「ちりぬるを」も松井五郎さんの作詞ですね。
市川:はい。まずタイトルを見た時に、電流が走ったような衝撃がありました。今回は遊郭に身を置く女性とそこに来た男性との恋物語なんですが、松井先生から「縋らず(すがらず)強請らず(ねだらず)媚びず(こびず)、どう生きるかの一線を知っている女性の姿を描きたかった」というお話をうかがい、これはまさに私が歌いたかった和の世界であり、また、ここ数年は演歌であってもちょっとチャレンジさせていただいた楽曲が続いていたので、幸先生にもお伝えしていた、より"演歌"な楽曲として形になったのがこの「ちりぬるを」なんです。
ーー演歌というとなんとなく共通するイメージのようなものはあると思うのですが、由紀乃さんが思う演歌、自分にとっての演歌とはどういうものでしょうか。
市川:自分の演歌ーー。「演じる歌」と書いて「演歌」ですけど、自分自身が主人公のように思いを重ねて演じられる楽曲もあれば、どちらかというと第三者的な感じで、この人の人生を私が代わりに歌わせていただきますっていう演じ方など、いろんな演じ方があると思うんです。でもどの作品も、自分が歌わせていただくときは、女心であればその主人公の女性の強さや弱さを、自分なりの表情や曲ごとの所作、振付で演じる。そうやって自分の演歌になっていってるのかなと思います。私は所作や振付もその楽曲の世界観を表現するものだと思っているので、毎回振り付けの先生にお願いしてつけていただいています。
ーーどう演じるか、どう表現するか。楽曲と向き合う時間がとても大切になってきますね。
市川:本当に大切ですね。幸先生はお会いしてすぐの頃からずっと、レコーディングする前のオケ録りまでに、ある程度歌い方を固めていないとダメだっておっしゃっているんです。その場で弾いてくださるミュージシャンの皆さまは、私の歌を聴きながら弾いてくださるので、私が「これは仮歌だから」とか「(本番の)歌のレコーディングはまだ先だから、多少メロディを覚えていればいい」っていう考えだと、その歌声で皆さまの気持ちも変わるからって。「ここは強く弾きたい」とか「ここはこう弾きたい」って思ってもらえる歌をまずここで歌わなきゃいけない」という幸先生の教えを受けてきましたので、弾いてくださるミュージシャンの皆さまにこの楽曲の世界観を届けるというのが、歌のレコーディングを行うまでの第一関門だったりもするんですよね。
ーー人の心を動かす歌を歌うというのは、技術だけでなく、人生経験というのも必要な要素なのかなと思います。そう考えると、デビューされた17歳の時には歌えなかったもの、逆にあの頃だったから歌えたことなどもあるんでしょうね。
市川:ありますね。聴いてくださる方の心を動かせる歌い手になりたいっていうのは、常日頃、そして永遠の目標として掲げていることでもあります。諸先輩方の背中を見ていますと、特にこの演歌や歌謡曲の世界には、その方の人生そのものを感じるような歌声というものがあるんですよね。口先だけではなく、心から歌を表現されている。人生いろんなことがあったけどこれでよかったんだって笑ってお話しされる先輩方の歌って、辛い歌であっても悲しい歌であっても、最後はどこか元気をいただくんですよね。それはやっぱりその人の人生を感じるからなんだよなって思うと、私はそこまで至ってはいませんが、今50代でここまでいろんな経験もさせていただいたので、10代の頃には表現できなかったことが今だったらちょっとは表現できるかなと思います。逆に初々しい、若々しい歌はちょっと難しいかなとか思ったりもしますけど(笑)。




















