今まで見たことのない女王蜂の誕生 ビジュアルの歴史から紐解く、新曲「星」に宿る説得力の理由

女王蜂、ビジュアルから紐解く「星」の凄み

 8月5日、女王蜂がニューシングル『星』をリリースした。表題曲の「星」は7月に放送がスタートしたTVアニメ『天幕のジャードゥーガル』(テレビ朝日系)のエンディングテーマ。アニメの開始タイミングで先行配信リリースされ、MVも公開された。繊細な美しさと力強さが同居する、深遠にして大胆な楽曲である。

『星(STAR)』Official MV

 『天幕のジャードゥーガル』は13世紀のモンゴル帝国を舞台にした物語。イランからモンゴルへ捕虜として連行された主人公シタラと、帝国の第2代皇帝オゴタイの妃ドレゲネによる復讐劇だ。主人公の名前である“シタラ”はペルシャ語で“星”を意味する。女王蜂によるエンディングテーマの曲名はその主人公の姿を重ねたものであると同時に、曲中で〈どこにもない〉と歌われる「永遠」の象徴でもあるのだろう。

 〈あまねく星空よ/光よこの身に降り注ぎ/涙枯れ果てたこの目に輝きを宿せ〉――独特のリズムパターンがアラビア世界のムードを醸し出すサウンドのなか、アヴちゃん(Vo)によるスポークンワードで語られるその言葉は、絶望に打ちのめされながらも星空を見上げ、自らを奮い立たせて孤独な闘いへと身を投じていく主人公の姿を鮮やかに描き出す。

 そんな楽曲の世界観を拡張するのが、今回の楽曲に合わせて作られたビジュアルコンセプトだ。月のような砂漠の星の上に立つ、アヴちゃん、やしちゃん(Ba)、ひばりくん(Gt)の3人。ArcaやFKA Twigsの衣装を手がけた経歴を持つデザイナー・yudai onoによるアヴちゃんのコスチュームは、無垢な白いドレスの上に、毛皮のようにも脱皮しかけの抜け殻のようにも、あるいは羽化したての翅のようにも見えるテクスチャを纏ったもの。onoのシグネチャーである鋭角のモチーフを駆使したそのデザインと、それを活かしたremi takenouchiによるスタイリングは、荒涼とした雰囲気とそのなかで折れることなく貫かれる強い精神を見事に表現している。中東、中央アジア、そして宇宙。3つのまったく異なる世界が入り混じるような重層的なニュアンスを醸し出しながら、それをモノクロで表現することでシリアスな空気をも描き出す――楽曲、アニメ、そして女王蜂というバンドのキャラクターが形成するトライアングルの真ん中で、その共通点を浮かび上がらせるような、秀逸なビジュアルだと思う。

 配信アートワークもとても印象的だ。MVの世界観と地続きのものだが、こちらではアヴちゃんが砂まみれになって、何かを抱くような姿勢で半身を地面に埋めている。翅をもがれて地面に堕ちたのか、それとも、ここから大きな運命のサイクルが回り始めるのか。物語の始まりのようにも終わりのようにも見える写真が、「星」という楽曲に流れる悠久の時間を感じさせる。長年女王蜂とチームを組むアートディレクター・平野哲央が手がけた一連のビジュアルは、楽曲それ自体と密接に結びつきながら、その前後にある時間軸までをも浮かび上がらせている。

 これまでも女王蜂は、楽曲ごと、作品ごとに、まったく新しいビジュアルを打ち出してファンを驚かせ、楽しませてきた。たとえば、アニメ『【推しの子】』第1期(TOKYO MXほか)のエンディング主題歌となった「メフィスト」。この曲のアートワークやMVには、アヴちゃんが地獄のアイドル=“ぁゔち”に扮して登場している。ハートのモチーフがあしらわれたふわふわキラキラなアイドル風衣装を手がけたのは、これまで数々のタイミングで女王蜂とタッグを組んできた渡康輔だ。言うまでもなくアイドル業界を舞台にした『【推しの子】』の世界を取り込んだものだが、それをただのコスプレではなく、女王蜂、そしてアヴちゃんにしか放てないメッセージへと昇華しているところが重要である。

女王蜂

女王蜂『メフィスト』
『メフィスト』

 「メフィスト」はアイドルソングと呼ぶにはあまりにも鋭利でヘヴィな楽曲だが、そこで歌われる〈わたしが命を賭けるから あげるから/あなたは時間をくれたのでしょう?〉というフレーズには、それこそ『【推しの子】』に登場するアクアやルビーとともにぁゔちという“アイドル”の覚悟、ひいてはその裏側にいるアヴちゃん自身の表現者としての意思も込められているように感じる。ジャケット写真ではボロボロに引き裂かれた網タイツを穿いたぁゔちの白い衣装が血のような青い液体で染め上げられている。MVで傷だらけになる姿も含めて、一般的な“アイドル”のイメージをぶち破り、その奥にある本性を暴き出すようなビジュアルである。どこまでが意図されていたものかはわからないが、そうやって散りばめられた“ヒント”について考えるのも、女王蜂のビジュアルの楽しみ方のひとつだろう。

女王蜂『メフィスト(Mephisto)』Official MV
「メフィスト」MVより
「メフィスト」MVより
「メフィスト」MVより
「メフィスト」MVより
「メフィスト」MVより
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 同じく渡が衣装を手がけた「01」のビジュアルもすごかった。ジャケットに写るのは、バトルスーツのようなプロテクターをあしらった純白の衣装に身を包んだアヴちゃん。手に掴んでいるのは、葬式で使われるような白黒の幕だ。

女王蜂『01』
『01』

 この「01」はアニメ『アンデッドアンラック』(MBS/TBS系)のオープニングテーマ。この作品には生と死が大きなテーマとして横たわっているが、女王蜂はそんな作品に曲を書き下ろすにあたって、その根源的な命題に真正面から向き合った。疾走感あふれるロックサウンドに乗せてがなり立てるように歌うアヴちゃんの声は、運命に抗いながら「今日を生きる」という道を選ぶという強い意思を体現している。その姿勢が“死”と“闘い”を同時に描くようなビジュアルコンセプトに結実しているのだ。MVでは、死に瀕したアヴちゃんが必死に自分自身と格闘する姿が描かれる。銃や剣も登場する壮絶な闘いのなか相手に華麗なジャーマンスープレックスを決める勇姿が見どころだが、そんなMVのストーリーも含め、すべてのコンセプトが最初からきっちりと組み上げられていたことを物語る作品となっていることがわかるだろう。

『01(ZERO ICHI)』Official MV

 一方、同じように生き死にやそこでの闘いを描きながらも、まったく異なる景色を描き出すのが、アニメ『地獄楽』第2期(テレビ東京系)エンディングテーマとなった「PERSONAL」である。落ち着いた曲調に沸々と湧き上がるような激情が流れるミディアムバラードとなっているこの曲は、さまざまな負の感情が吹き荒れるなかで〈生きてゆかなくちゃ/明日が待ち迎えている〉と歌う。その向いている方向は「星」とも、あるいは「01」とも通じ合っているが、それをより切実に描き切っているのがこの曲だといえるだろう。

女王蜂

女王蜂『PERSONAL』
『PERSONAL』

 「PERSONAL」のジャケット写真にいるのは、淡い水色のドレスを着て小川のなかに横たわるアヴちゃんである。この写真の構図は、ミレイの名画「オフィーリア」へのオマージュだ。オフィーリアはシェイクスピアの戯曲『ハムレット』の登場人物。恋人であるハムレットに父を殺害されたショックで狂い、最後には自ら死を選ぶ(という解釈が一般的)、悲劇のヒロインである。そんな死の象徴であるオフィーリアをモチーフにしている「PERSONAL」のビジュアルだが、ではこのジャケットが“死”を描いているのかというと、それだけではないような気もする。中根さや香がディレクターを務めたMVも絵画的な構図にこだわり抜いた美しい作品となっているのだが、そこでアヴちゃんは濃い青色のワンピースと、ジャケットでも着ているドレスの2パターンの衣装を身につけている。トーンの違うふたつの青のなかで、淡い水色と妖精のようなドレスのデザインはまるで生まれたてのような無垢でフレッシュな印象を与えないだろうか。その印象の違いが、オフィーリアの死の光景を、新たに生まれ直すその瞬間へと転化しているように筆者には感じられる。このスタイリングを担当したのは明石侑香だが、女王蜂を象徴する色である青を効果的に使いながら、そこにひとつの物語も投影するようなその手腕の背景には、間違いなくアヴちゃんの意図も反映されているはずだ。

『PERSONAL』Official MV

 ここまでいくつかの楽曲を軸に振り返ってきたとおり、女王蜂のビジュアルコンセプトは衣装のスタイリング、構図、色使い、そしてMVも含めたトータルのデザインのなかで形作られている。それを踏まえてもう一度「星」のMVを観てみよう。

女王蜂「星」MVより
「星」MVより
「星」MVより
「星」MVより
「星」MVより
「星」MVより
「星」MVより
「星」MVより
「星」MVより
「星」MVより
「星」MVより
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 松永侑が手がけたモノクロの映像のなかで、地球儀の青やそこにかけられる赤い液体の鮮やかな色がとても印象的に使われている。荒涼とした世界に現れるその色が、楽曲そのものに宿る生命力を何倍にも増幅していることがわかるだろう。具現化されたイメージを目にすることで、音楽の世界はぐっと広がる。その役割と機能に、女王蜂はとても自覚的だ。ビジュアルと音が互いに違いを補完しながらひとつの表現へと昇華されていくところに、このバンドのダイナミックな魅力の一端がある。今後のビジュアル表現にも引き続き注目したい。

■リリース情報
New Single『星』
発売中

販売URL:https://QueenBee.lnk.to/STAR_CD
配信URL:https://queenbee.lnk.to/2dmqwn

完全生産限定盤(CD+Blu-ray)
AICL-4918~9/税込 7,700円
・7inchレコードサイズ 豪華特製BOOK仕様
・50ページフォトブック・プレミアムレーザーカットカバー付属

<CD収録内容>
01. 星
02. サスペンス
03. 星 (off vocal ver.)
04. サスペンス (off vocal ver.)

<Blu-ray収録内容>
『全国ホールツアー2026「PERSONAL DISTANCE」』
2026.05.05 Live at 大宮ソニックシティ 大ホール
選りすぐりの13曲を収録

01. PERSONAL
02. 雛市
03. 火炎
04. 金星
05. デスコ
06. ヴィーナス
07. BL
08. SAILOR
09. バイオレンス
10. FLAT
11. HELTZ
12. メフィスト
13. Serenade

期間生産限定盤(CD)
AICL-4920/税込1,800円
7inchレコードサイズアニメ絵柄描き下ろし紙ジャケット仕様

<CD収録内容>
01. 星
02. サスペンス
03. 星 (anime size edit)
04. 星 (off vocal ver.)

『星』特設サイト:https://ziyoou-vachi.com/star/

■ツアー情報
『女王蜂 全国ツアー2026「星」』
北海道・Zepp Sapporo
2026年10月11日(日)OPEN 17:00/START 18:00

大阪・Zepp Osaka Bayside
2026年10月18日(日)OPEN 17:00/START 18:00

愛知・Zepp Nagoya
2026年10月23日(金)OPEN 18:00/START 19:00

福岡・Zepp Fukuoka
2026年10月25日(日)OPEN 17:00/START 18:00

東京・Zepp Haneda(TOKYO)
2026年10月30日(金)OPEN 18:00/START 19:00

<チケット>
一般発売日:2026年9月19日(土)10:00~
7,500円(税込/1Fスタンディング/2F指定席/別途要ドリンク代)
※6歳以上チケット必要、6歳未満入場不可
公式HPにて本公演の注意事項を必ずご確認くださいますようお願い申し上げます。

女王蜂 オフィシャルサイト:https://www.ziyoou-vachi.com/
X:https://x.com/qb_announce
アヴちゃん X:https://x.com/qb_avu
TikTok:https://www.tiktok.com/@qb_official_
YouTube:https://www.youtube.com/@ziyoou-vachiSMEJ

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