『AKB48選抜総選挙』が生んだ波乱と課題 香月孝史が結果から読み解く
AKB48グループによる『AKB48 49thシングル 選抜総選挙』が6月17日に開催され、一連の経緯とその波紋が連日ニュースとして報じられている。
各グループごとのトピックを挙げだすとキリがないが、指原莉乃(HKT48/STU48)が1位となり3連覇を果たしたこと、2位の渡辺麻友(AKB48)が卒業を発表したこと、速報1位の荻野由佳(NGT48)が最終発表でも5位に付けたこと、スピーチでは須藤凛々花の発表を巡って各メンバーがスピーチで自身のアイドル論を展開するなど、グループ内外のファンにもその内容が波及している。
今回の結果について、『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』の著者であり、AKB48グループに詳しいライターの香月孝史氏は、「総選挙を代表的な価値観で総括するのは難しくなった」と分析する。
「グループが次々と誕生し、投票の対象になるメンバーの幅が広がったことで、総選挙をなにか一つの代表的な価値観で総括するのは難しくなったと感じます。渡辺さんや指原さんなどをはじめ、いち芸能人としてのキャラクターや立ち位置をそれぞれに確立していくメンバーも多くなり、“AKB48グループ内の順位”のような単一の文脈を作ってそのなかで競うことがなじみにくくなってきたと言ってもいいかもしれません。その大きな節目になったのは、総選挙が立候補制になり、2015年の『AKB48 41stシングル選抜総選挙』から不出馬を選ぶ人気メンバーが続々と登場したこと。『どう戦うか』ではなく『そもそも総選挙に対してどういうスタンスを取るか』自体にメンバーごとの主張が込められるようになってきました」
また、同氏は今回の『総選挙』について「総選挙の持つ意味合いが大きく変化した一年になった」という。
「今年は特に『総選挙』がメンバーたちの価値観をぶつけ合うフィールドとして機能しているように感じられました。これまでも『総選挙』は『メンバーそれぞれが無数のドラマを生むための装置』として機能してきました。その『総選挙』は今回、単に順位をめぐってドラマが生まれるというよりも、個々が48グループ内でのそれぞれのスタンスを見せる場所になっていたと感じました。それを最も色濃く打ち出していたのがNMB48だったと思います。NMB48については、グループのエースである山本彩さんが不出馬を選び、同じく独自のスタンスを築いている木下百花さんと一緒に実況動画を配信して、グループ内にいながらも俯瞰的な立場で見守っていました。そしてグループ内外に向けて爽快な主張を見せたのは選抜入りを果たした吉田朱里さんでした。YouTuberとして動画の配信を続け、これまでにはなかった層からの支持の拡大・ファン開拓に成功し、スピーチでは『現在のAKBグループは外への発信力が足りない』と問題提起したのも、今年の彼女だからこその説得力がありました。ハプニング的に議論を呼んでいる須藤凛々花さんも含めて、選挙に対する関わり方の多様さを最も見せていたグループだと思います」