シドはまた新しいストーリーを始めるーー武道館公演に感じたバンドの“意思”

シド、武道館公演レポート

 思えばメジャーデビュー後の代々木第一体育館やさいたまスーパーアリーナのライブには親子連れで訪れる人たちも多く、「お母さん世代にも愛される音楽なんだな」と感じた記憶がある。見た目のカッコよさやパフォーマンスの華やかさ、激しさもヴィジュアル系の大事な要素だが、シドのライブには「あの曲をもう1回、生で聴きたい!」と思わせる魅力がある。そういうスタンダード性と中毒性のある曲を表現するスキルを4人が持ち合わせているバンドであることは言うまでもないが。

 この日は月日を埋めるMCのやりとりも観客を喜ばせた。

ゆうや(Dr)

 「1年7カ月ぶりということで僕らも欲求不満です。今日は欲求という欲求、ストレスというストレスをみんなで吐き出して帰ろうね」とマオが呼びかけ、「ゆうやくん、ストレスあるの?」と問いかけたことから話題は各自のストレス話に移行。ゆうや(Dr)が「ライブ前の気合入れで大きな声を出したら、裏返っちゃう時」と答え、大人になると大声を出す機会が減ると話すとマオに今、大きな声を出すようにリクエストされるなど、答えれば答えるほどマオに突っ込まれる展開に。明希が「飲食店に行った時に“すいません”とスタッフを呼ぶ声が通らない。ずっと“すいません〜。板わさ”って言ってるんだけど」とストレスを明かせば、まず「すいません」と呼んでから注文したほうがわかりやすいと言われ、Shinjiが「シドのShinjiっていうのが言いづらい」と話せば、マオが「シドが問題なの? 最近、Shinjiくん、ポンコツ度が増してきたよね」とバッサリ……といった具合。しかしながら、この天然のやりとりが変わらないシドで安心した人も多かったに違いない。

明希(Ba)

 明度が強くなっていった後半戦では開放感たっぷりのキラーチューン「Dear Tokyo」が投下され、大合唱。初日にも披露された「循環」では観客も大騒ぎ。明希が「もっと声、出せるだろ!」と煽り、Shinjiがスロープを全速力で走って変身ポーズ(?)をキメるなどして場内を盛り上げ、弾けまくりのロックンロール「one way」で本編が終了した。

 アンコールではいきなり暗転してシドの今後の情報がビジョンに映し出されるサプライズな場面もあり、場内は大熱狂。1曲目に演奏されたのは最新シングル「バタフライエフェクト」だったが、これまでのシドとはタイプの違う激しさを感じさせる厚みのあるサウンド、<何もかもを全て おれが捻じ曲げよう>と歌うクール且つ攻撃的な歌詞が未来に向かうシドの意思表示のように響いてきた。

 ラストをライブのタイトルにふさわしい名曲「光」で締めくくったシド。終演後に涙を流しながら感謝の想いを伝えたShinjiの姿も完全復活までの道のりを思わせ、明希も生声で「ありがとうございました!」と絶叫。ゆうやとマオが抱き合う姿も印象的だった。

 シドはニューシングル『螺旋のユメ』(テレビアニメ『将国のアルタイル』のオープニングテーマ)を8月2日にリリース、9月に3年6カ月ぶりとなるニューアルバムをリリースし、『SID TOUR 2017』と題して9月23日から久々の全国ホールツアーを開催する。

 ここからまたシドの新しいストーリーが始まっていく。多くの人たちが武道館でそう感じたに違いない。

■山本弘子
音楽ライター。10代の時にパンクロック、グラムロック、ブルースに衝撃を受け、いまに至る。音楽がないと充電切れ状態に陥る。現在、Webサイト、音楽雑誌などで執筆中。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる