アニソン界のシンガーソングライター大原ゆい子が語る、異色の経歴と“作品に寄り添う音楽”の作り方

大原ゆい子が語る“作品に寄り添う音楽”

 劇場版アニメ『リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード』の頃より、同作のエンディングテーマを担当し続けてきたシンガーソングライターの大原ゆい子が、シングル『透明な翼』を5月24日にリリースする。TVアニメ版『リトルウィッチアカデミア』(TOKYO MX)第2クールのエンディングテーマでもある本作は、大原の透き通った声とそれに対比した彩り豊かなサウンドの調和が持ち味だ。

 “アニソン界のシンガーソングライター”という、ともすればなかなかイメージしづらいポジションにいる彼女。しかしそのルーツや曲作りの姿勢を伺ってみると、確かにこれはソングライターとしての視点、切り口だなというのが理解できる。新曲についてや、シンガーソングライターとして羽ばたくまでの苦悩、そして、感情発起型とでも言うべきイマジネーション構築の源泉を訊いた。(ヤマダユウス型)

「『リトルウィッチアカデミア』と寄り添ってきた自身のキャリア」

ーー『リトルウィッチアカデミア』シリーズのエンディングテーマとしては通算3作目になりますが、こうして連続してエンディングを担当することになった心境はいかがですか?

大原ゆい子(以下、大原):映画の時はTVアニメの歌を歌えるということは全く想像していなかったので、ここまで深く作品と関われることができるなんて思っていませんでした。今こうしてリアルタイムで『リトルウィッチアカデミア』を見ていても、幸せなことだなといつも思います。

ーーアニメも素晴らしい作品ですよね。

大原:そうですよね。私自身もファンなので、Twitterでリトルウィッチアカデミアについてつぶやいている方の感想などを見ると同じ気持ちになります。それと同時に、テーマソングで関わらせていただいているので、本当に自分のことように嬉しいです。劇場版を担当していた頃から「TV版もあったらいいな」と思っていたんですけど、またテーマソングを歌わせてもらえるかというのはそんなに気にしてなくて。ファンとして純粋に続きが見たいと思っていました。

ーーということは、2クール目エンディングのお話が来た時は「2クール目があるんだ!」という驚きもあったのでは?

大原:ちょうど前作『星を辿れば』のレコーディングが終わってリリースイベントをしている時に平行して『透明な翼』を作っていたんです。もうその時はてんやわんやで(笑)。カップリングのことも考えたり、2クール目の脚本も読ませていただきながら1クール目を見ていたので、けっこう頭の中がわちゃわちゃしてましたね。

ーーということは、1クール目の放送中に2クール目の気持ちを想像して歌詞を書いていたんですね。

大原:そうですね(笑)。なのでファン目線からすると「あ、知っちゃった!」というところも結構あって……。でも、それはそれで楽しませてもらっています。

ーー今作『透明な翼』はアニソンとしての楽しみ方だけではなく、一人のシンガーソングライターの素朴な音楽としても成立していると感じました。なのでアニメタイアップではあるけれども、『リトルウィッチアカデミア』の物語やエンディングへの流れがあってより増幅される曲だなと。

大原:2クール目の脚本を読ませていただいて感じた、自分と重ねたメタモルフォーゼがあったので、「リトルのために作らなきゃ!」と思いながらも自分らしさを出せたんじゃないかと思います。MANYOさんに作詞作曲してていただいた1作目の『Magic Parade』はまさにアニメのためにという感じだったんですけど、自分で書いた2作目の『星を辿れば』は『リトルウィッチアカデミア』が好きすぎた自分の思いがかなり詰まっていて、これも98%くらいは作品のためという感じです(笑)。でも今回は自分の成分もいくらか入れられたかなと。今クールは主人公がメタモルフォーゼ、成長していく姿が描かれていて、その変化をどう表現していいのかわからなくなって。なので「自分だったらこうかな」という思いで作っていきました。『リトルウィッチアカデミア』のことも含めつつ、多くの人の気持ちに当てはまるような曲になってるかなと思います。

ーー大原さん自身の経験があるからこそ引き出された言葉が、作品と重なっているんですね。

大原:皆さんそうだと思うんですけど、自分がいくら頑張っても自分にしかわからないこともありますよね。でも気がついたら今こうして作品の曲を歌わせていただいてたり、曲が書けるようになったり、ギターが弾けるようになっているんです。そうした、目には見えない多くのものがあるんだなっていう気持ちを、『透明な翼』に込めました。

「とにかくがむしゃらにオーディションを受けていた」

ーー大原さんは『ミスiD』への出場経験もあるそうですが、これはどういった経緯で?

大原:その頃は、次の年ダメだったら音楽を辞めようって考えてた時期だったんです。とにかくやみくもにオーディションに書類を送っていた中で、その年の『ミスiD』の審査員に大森靖子さんがいらっしゃって、「シンガーソングライターでもこういうの受けていいんだ」と思ったのが応募のきっかけですね。

ーーアイドル的なもののイメージはそれほど用意してなかった、と。

大原:オールジャンルでいいって書いてあったし、そんなじっくりアイドルのことを聞かれるとは思ってなかったですね。シンガーソングライターとして受けたつもりでした。

ーーある意味審査員にとっても驚きがあった気がします。

大原:審査員の人たちも何してる子なんだろうって思ってたらしくて、「歌う子とは思ってなかったなぁ」って後で結構言われましたね。

ーー「次の年ダメだったら音楽を辞めよう」と仰いましたが、そこにいたるまではどんな状況だったんでしょう?

大原:一人で活動したり色んなオーディションを受けたり、色々やってはいたんですけど結局最後で上手くいかないということが多くて。自分がどんな作品を作って、どんなライブをして、最終的にどうなりたいかっていうのを見失いつつあった時期でした。周りの人に「『リトルウィッチアカデミア』のタイアップのオーディションを受けてみない?」と言われた時も、すぐに「やります」って返事をしたのをよく覚えています。なので、自分のやりたいことを、誰かに与えてもらったような感じはありました。それまではずっと悩んだり迷ったりしていたので。

ーーそれを機に吹っ切れたというか、一段階上に行けたという感覚はありましたか?

大原:作品のために曲を書くという行為は元々一人でしていたんです、ドラマとかを見ながら。それを大っぴらにやってもいいという状況が今まで無かったので、アニメの曲を歌うというのは私の中で考えてなかったことだなと。『ドラえもん』の曲が歌いたいというやみくもな野望はあったんですけど(※大原は大のドラえもん好き)、そういうオーディションは受けたことが無かったです。

ーー作品をテーマに曲を書くことはあっても、自分がアニメーションと関わって歌うということは、今まで想像していなかったんですね。

大原:そうですね。元々アニソンは好きだったんですけど、それはそれとして自分がアニソンを歌う側になるとは思ってなかったです。でも、作品のために曲を書くというのはすごく楽しいんだなって、『リトルウィッチアカデミア』に関わらせてもらってから改めて感じるようになりました。物語からの刺激だったり、作中でのできごとに対しての自分の気持ちだったりファン目線だったり、色んなことを考えながら精神を削って書いていくと、自分としても「やりきったぞ!」ってなるので。

ーーそうした曲作りの姿勢は、今までの大原さんのスタイルにはなかったものですか?

大原:ライブでやっている曲は、自分の中でアイデアが出てきた時にババって書いちゃうものが多くて、すぐに曲が書けることが多いですね。なので、精神を削るというよりも自分の中から出てきたものを、そのまま出す、みたいな感じです。

ーーアプローチの違いに、戸惑いはありませんでしたか?

大原:最初はあったかもしれません。でも、明確に自分がやってみたいと思っているものに迫れるので。例えば「この作品の曲を作る」となった時に、「じゃあこうしてみたいな」とか、そういう自分の想像が明確化できるのは、とても楽しかったです。自分一人じゃ開けなかった扉だなと思います。

ーー大原さんが歌手を目指したきっかけはなんだったんでしょう?

大原:中学の頃にギターを触るようになって、例えば体育館でみんなが集まっている時に「ここで気持ちよく歌ったらどんな風に響くんだろうなー」とか、そういう発想から人前で歌うことの気持ちが強くなってオーディションを受けるようになった気がします。でも一番大きなきっかけでいうと、高校の頃に受けたオーディションですごく素敵な女性のシンガーソングライターの方がいたんです。それまでは、自分も曲を書いてみたいという気持ちはあったもののそこまで踏み込めずにカバーでオーディションを受けていたんですけど、その女性のように歌ってみたいなと思うようになって専門学校に行くようになりました。

ーー中学からギターをやり始めたとのことですが、それ以前から大原さんはバイオリンも経験しているんですよね。

大原:はい。小中と続けていて、高校になってから市のオーケストラに所属していました。

ーーオーケストラでの経験は自身の曲作りに活かされていたりしますか?

大原:かなり活かされてますね。むしろ小学生の頃にバイオリンを始めてなかったら今こうして歌っていなかったと思います。楽器を演奏したり、何かを表現することの楽しさというのは、バイオリンがきっかけで感じるようになりました。

ーーいわゆる旋律モノのバイオリンをしていながら、和音楽器のギターを始めるようになったのは、やはり歌への憧れがあったからでしょうか?

大原:小さい頃から歌うことは大好きだったので、自分で歌ってみるのも良いかなと思ったのと、やっぱり音楽を聴くのがすごく好きだったので、中学の頃に聴いていた音楽に刺激されて自分も演奏しながら歌ってみたいなと思ったのがきっかけですね。

ーーノスタルジックな音楽が好みとのことですが、具体的に影響を受けたアーティストは?

大原:もうずっとスピッツや松任谷由実さんが好きで、影響もかなり受けましたね。あとは平川地一丁目とかYUIさんとか、ちょっと胸が切なくなるギターソングが自分の中でグっときますし歌いたいと思います。

ーー現段階で目指すアーティスト像というのはありますか?

大原:もちろんライブもとても大好きなんですけど、私はどちらかというとライブをたくさんやってガンガン盛り上がっていこう! というタイプでもないので。今は曲を書くことがすごく楽しい時期なので、作品に関わらず色んな曲を書いてみたり、色んな自分を吐き出していけたらいいなと。最終的には多くの人に「この曲大原さんが書いたんだね」って言ってもらえるようになれればいいなと思っています。

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