スコット&リバースが『ニマイメ』で表した“新しいJ-POP” キャリアと音楽性から魅力を分析

スコット&リバース、新しいJ-POPを分析

 まず、タイトルからしてユニーク。彼らにとっての「2枚目」のアルバムという意味でもあるし、自分たちは「二枚目=男前」だという意味もあるだろう。オフィシャル・インタビューによれば、「見た目だけじゃなくて、音楽もカッコいいという意味も込めている」(スコット)という。アートワークは、漫画家/イラストレーター窪之内英策氏による、描き下ろしイラスト。窪之内はマンガ『ツルモク独身寮』や『チェリー』『ピカモン』などを手がけてきたベテランで、NOKKOが2015年にリリースしたレベッカのカバー・アルバム『NOKKO sings REBECCA tunes 2015』のジャケットを描き下ろしたのも彼だ。

「今回のアルバム・ジャケット案がいくつか最初にあったんだけど、あまりピンとこなくて。そんな時(スタッフから)窪之内さんの鉛筆のスケッチを見せてもらい、「何これ、何これ、カッコいいじゃん!」って思った。CDは最近、世界的に売れなくなってきてるけど、このジャケットだったら欲しくなってもらえるんじゃないか、少なくても僕は欲しくなったので、凄くいいなって思ったんです。結果的に素敵なアルバムのジャケットになりました」(スコット)

 サウンドは、前作からの流れを汲んだポップ&キャッチーなメロディと日本語の歌詞、そしてシンプルかつエッジの効いたバンドアンサンブルが主軸となっており、前作よりも“バンド感”を強く打ち出しているように感じる。前作では、1曲ごとにゲストやサポート・ミュージシャンをたくさん呼んでレコーディングしているため、アルバムとして統一感を出すというよりは、彼らの音楽的引き出しを「これでもか!」と言わんばかりに開け放っている印象があったのだが、今作はほとんどの楽曲を現在のライブ・サポートメンバーが関わっていることにより、全体的にまとまりがある上に“ライブ感”すら感じさせる仕上がりになっているのだ。

また、今回はゲストも多彩。上述したMONGOL800のキヨサクや、RIP SLYMEのPESの他、miwaがリード曲「変わらぬ想い」にフィーチャリング参加している。この楽曲は、miwaのニュー・アルバム『SPLASH☆WORLD』にはスコット&リバースがコーラスとして参加するバージョンが、本作にはスコット&リバースがメイン・ボーカルで、miwaがコーラスするバージョンが収録されている。また「変わらぬ想い with miwa」は日本人作家も携わっており、こうしたコラボレーションは、スコットとリバースにとって「作曲面」での大きな発見もあったようだ。

170411_srm_a.jpeg
スコット&リバース+miwa

「僕が一番興味深いと思ったのは、日本の作曲家はほとんどの場合、歌詞を書く前にメロディを完全に仕上げるところ。メロディだけを最初から最後まで完璧に仕上げてから歌詞に取り掛かる人をアメリカでは見たことがない。でも日本では、その完成したメロディに歌詞を当てはめていくんだ。凄く面白いと思ったよ」(リバース)

 さらに海外勢では、Death Cab for Cutieのベン・ギバードが「君はサイクロン」の作曲で、weezerのスコット・シュライナーが「本音なんだ。」のベースで参加している。この辺りは、洋楽ファンも気になるところだろう。

 それにしても本作、コード進行やそこに乗せるメロディ、キャッチーな掛け合いコーラスにライブで盛り上がりそうなキメやリフなど、「この人たちは本当にJポップ・Jロックが大好きで、研究し尽くしているのだな」と感心するところがたくさんある。以前、本サイトで行ったインタビューでリバースは、Jポップ・Jロックの魅力について「スーパー・キャッチーなメロディ。スーパー・ハイエナジーなサウンド。それからコンプレックス(複雑)なコード進行」と話していたが、まさにそうした要素がふんだんに盛り込まれているのだ。

「スコリバには、weezerだったら出来ないような、新しいことや実験的なことなど、なんでもチャレンジできる自由がある。だから、例えばスコリバで「風吹けば」や「君はサイクロン」のような曲ができたら、それをweezerのマネージャーに送って『こういうのが新しいサウンドっていうんだ』って言ってやるんだ。そうするとweezerチームはそれに刺激を受けて、次のアルバムではもっと新しいことにチャレンジする気になってくれたりするんだよ」(リバース)

 洋楽に憧れながらも、日本人ならではの解釈によって、独自に発展していったJポップ・Jロック。その魅力に取り憑かれた「洋楽アーティスト」が、このような形で作品を「逆輸出」してくるのは実に痛快だし、日本人リスナーとしても光栄だ。目標は「紅白歌合戦出場」と話すリバース。彼らの音楽が、もっとこの国のお茶の間に浸透していくことを期待したい。

Scott & Rivers 『Doo Wop feat.キヨサク(MONGOL800)』

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

ブログ:http://d.hatena.ne.jp/oto-an/
Facebook:https://www.facebook.com/takanori.kuroda
Twitter:https://twitter.com/otoan69

■リリース情報
『ニマイメ』
発売:2017年4月12日
通常盤: ¥2,400(税抜)
完全生産限定盤(FABRICKオリジナル・イヤフォンケース付): ¥4,000(税抜)
〈収録曲〉
01. 僕らの未来
02. Doo Wop feat. キヨサク(MONGOL800)
03. FUN IN THE SUN feat. PES(RIP SLYME)
04. カリフォルニア サンシャイン
05. 風吹けば
06. ニューガール
07. 君はサイクロン
08. スコリバのテーマ
09. 本音なんだ。
10. ハミングバード
11. 変わらぬ想い with miwa
12. パンツ脱ぐ(ボーナス・トラック)
iTunes

■ライブ情報
『Scott & Rivers ニマイメデショウ』
4月18日(火) 東京:渋谷WWW X
4月21日(金) 大阪:Music Club JANUS

オフィシャル・サイト
オフィシャルtwitter
オフィシャルfacebook
オフィシャルInstagram

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる