狐火がLGBTとHIPHOPの架け橋となった日ーー新宿二丁目『日本語ラップナイト』イベントルポ
その後も29才、31才、33才と「リアルシリーズ」が続く。狐火から吐き出される等身大の弱音に共感した観客が目頭を押さえる。気が付けばあたしも恥ずかしいくらいに涙していた。皆一体になって狐火のライブに耳を傾けた。ゲイもレズビアンもストレートも関係ない。狐火の歌が、ラップが皆の心に響いた。続けて狐火は「悪口ばかり曲にしやがって」を歌った。<俺の悪口ばかり曲にしやがって/いつか売れたら訴えてやるから覚悟しとけ>というツンデレ上司からの激励に対して照れ隠しに<返り討ちにしてやる>と歌う。数ある楽曲から40分と短いライブ時間の中でこの曲を選んだのはサラリーマン兼業ラッパーであることにどこか誇りを持っている証拠だろう。
最後の曲はアルツハイマー病を発症した祖母のことを想う「マイハツルア」。<秒針一秒一秒越しにじょじょに愛おしい思い出が消えていくならその空いた穴は何で埋まるでしょうか?/あなたの記憶からオレがいなくなる前に後何回オレの名前を呼んでくれるかな/後何回ありがとうを言えるかな/教えてください>という切ない歌詞に涙が止まらない。ああ、本当に狐火に来てもらって良かったなと心の底から思った。
ライブ後もNAKAMATA、そしてオタカのDJでパーティーは続く。「さっ! 飲むわよ~!」という二丁目でしか聞くことのできない乾杯の音頭が響く。緊張が解けたストレートの男女もゲイやレズビアンの客とグラスを交す。狐火目当てで初めて二丁目に来たという男女と話していが、「二丁目最高!」と笑っていた。しかも男性の方はいわゆるガチムチ体型だったのでゲイに大モテ。本人も満更ではない様子で楽しんでいた。中には「おネエ言葉を使う人に初めて会って、テレビやマンガの世界だけじゃなかったんだって衝撃を受けた」という声もあった。
確かにそうなのかもしれない。でも違うんだよ。あたしたちはずっといたんだよ。狐火の音楽のおかげで、そしてHIPHOPのおかげでやっとこうやって皆に会えたの。だから今日あなた達が来てくれて本当に嬉しかったんだよ。誰に伝えるでもなく、あたしはそう思った。この夜、確かに狐火はLGBTとHIPHOPの架け橋になったのだ。日本一のラッパーではないかもしれないけれど、この日、狐火は新宿二丁目一のラッパーになったのだった。
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■鼎
日々HIPHOPの現場に乗り込んでるゲイライター。
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