ペトロールズのカバーアルバムが物語る、長岡亮介が達成した「ギターロック」からの逸脱

 そんな中にあって、ペトロールズはあくまで3ピースという最少編成にこだわり、グルーヴ主体の音数の少ないアンサンブルの中で、ギターの可能性を追求し続けてきたからこそ、長岡のプレイは他のギタリストとは一線を画すものとなっている。そして、その一番の特徴は、ある種のルーズさだと言えるのではないだろうか。例えば、illionのライブでは打ち込みのトラックをmouse on the keysの川崎昭が生で再現し、揺らぎを含んだビートが長岡のギターとグルーヴにおいて相性の良さを見せているが、ここからは長岡のキャリアの原点とも言える椎名純平の作品が、ネオソウル的な作風であったことを思い起こさせる。

 また、星野源は好きなギタリストとして長岡と共にブルースギタリストのエイモス・ギャレットの名前を挙げているのだが、「神様が酔っ払ったかのようなギタープレイ」と言われるエイモスのプレイも、やはりルーズさが魅力。「ギターロック」に限らず、2010年代の日本の音楽がグリッドに沿ったスクウェアなものになっていったからこそ、グルーヴィーであると同時に、そこから心地よくはみ出す長岡のプレイは際立っていた。それは「ギターロック」からの逸脱であると同時に、「ギターバンド」の拡張であったとも言えよう。

 リリース記念ライブでは、開催前日にペトロールズの出演が急きょ発表され、当日はトップバッターとして出演。自分たちのカバーアルバムの発売を祝う日であるにもかかわらず、「僕たちはアルバムに参加していないので……」と恐縮しながら、淡々とステージを進めて行った。やはり、どこまでもはみ出した存在のバンドだが、しかし、12年という彼らの歩みがいかにこの国の音楽シーンに影響を与えたのかは、その後に延々繰り広げられた各アーティストの熱演が十二分に証明していた。

■金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。

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