EXILE ATSUSHIが示す、アーティストとしての歩み 『IT'S SHOW TIME!!』ライブ映像を観て

 ところで、このドームツアーのライブの中で、ATSUSHIは自身の新しいプロジェクトであるRED DIAMOND DOGSのお披露目も同時に行った。彼の新たな音楽の世界観を表現するために結成された新バンド、RED DIAMOND DOGS。ライブでの登場時には、ブラックミュージックをベースとした、スキルに溢れたグルーヴィなバンドサウンドの印象が濃かったRED DIAMOND DOGSだが、今回の映像作品と同じタイミングでリリースされた、RED DIAMOND DOGSの2枚目のシングル『Stand By Me』を改めて聴いてみると、その印象は少し変わってくる。

RED DIAMOND DOGS『Stand By Me』

 今回のミュージックビデオが、ハワイで撮られていることからもわかるように、アコースティックを主体としたこの曲は、どこか全体的にリラックスした雰囲気が漂った、ある種の「旅立ちの歌」となっているのだった。途中「ジョンとヨーコみたいに」という歌詞が登場するけれど、かつての仲間たちから離れ、新たなステージへと旅立とうとする心象風景を、リラックスしながら綴ったようにも思えるこの曲。ATSUSHI曰く、「歌詞からは『夢を追いかけて前に進む中で、支えになってくれる人を想う気持ち』を、リズムやメロディーからは『癒やし』を感じて頂ければと思います」とのことだけれど……そう、今回のドームツアーを終えたあと、ATSUSHIは、その活動の拠点を、以降2018年まで、海外に移すことを発表した。ライブで初披露されたときには気付かなかったけれど、ひょっとするとこの曲には、その「旅立ち」を穏やかな気持ちで受け止めてほしいという、そんな彼の思いが込められているのかもしれない。

 いずれにせよ、ATSUSHIというアーティストが、EXILEの一員としてデビューしてから15年間にわたって積み上げてきたことから、そこで見出した「歌手」としての自らのアイデンティティ、さらにはRED DIAMOND DOGSという新しいプロジェクトの紹介、そして加山雄三やボーイズⅡメンとの共演、果てはかつての相方、清木場俊介との10年ぶりのステージなど、彼のキャリアを総まくりにするような、実に盛りだくさんの要素が、余すことなく収められた『EXILE ATSUSHI LIVE TOUR 2016 "IT'S SHOW TIME!!"』。それは、ATSUSHIというひとりのアーティストの過去、現在、そして未来を窺う意味でも、実に重要なアイテムとなっているように思われる。今後、海外に拠点を移した彼が、どんなふうにステップアップしながら、自らの新しい音楽を構築していくかは、まだまだ未知数だ。しかしながら、それがこのライブを踏まえたものとなっていくのは、どうやら間違いのないことのように思われる。その意味でも、必見の映像作品と言えるだろう。

EXILE ATSUSHI / EXILE 第一章スペシャル・メドレー with 清木場俊介 (EXILE ATSUSHI LIVE TOUR 2016 “IT'S SHOW TIME!!”)

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。

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