EXILE ATSUSHIはなぜマーヴィン・ゲイと美空ひばりを同時に歌う? 宗像明将の東京ドーム公演レポ

EXILE ATSUSHI東京ドーム公演レポ

 2016年8月31日、EXILE ATSUSHIが活動拠点を海外に移すことが発表された。期間は2018年まで。その突然の発表を受けてまず私が思い浮かべたのは、EXILE ATSUSHI初の単独ドームツアー「EXILE ATSUSHI LIVE TOUR 2016 "IT'S SHOW TIME!!"」の東京公演初日である2016年8月27日の東京ドームに、ボーイズIIメンが登場したときのことだった。海外からのビッグ・ゲストの登場に、東京ドームはまさに割れんばかりの大歓声に包まれた。

 そして、ボーイズIIメンのボーカルの技巧は圧倒的だった。彼らの肉声にはオートチューンなど不要だと痛感した。そして、ボーイズIIメンの2006年の「Muzak feat. ATSUSHI(EXILE)」や2011年の「End Of The Day ~Boyz II Men feat. EXILE ATSUSHI~」で、EXILE ATSUSHIがこのレベルのアーティストと共演しておいたのは正解だったと感じたほどだ。

 そんなステージを見ていたからこそ、期間限定ではあるが、EXILE ATSUSHIが活動拠点を海外に移すことに驚きはしなかった。2016年8月27日の東京ドーム公演は、ボーイズIIメンとの共演以外でも、ボーカリストとしてのEXILE ATSUSHIの姿をこれでもかというほど見せつけるものだったのだ。

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 開演前に会場に流れていたのは、フランク・シナトラの「Theme From New York, New York」。そして、開演とともに登場したのは、約40人ものミュージシャンで構成された大編成バンドだった。彼らによるオープニング演奏はジャズそのもの。そして、やはりジャジーな「Beautiful Gorgeous Love」で、EXILE ATSUSHIはステージ上の光る階段をおりながら登場した。ステージ・セットは照明も華やかなゴージャスなものだ。「All of Me」でもジャジーな演奏は続き、ギター、オルガン、サックス、トロンボーンによるソロも展開された。EXILE ATSUSHIは「All of Me」の最後を伸びの良い声で歌いあげてみせた。

 そして、マーヴィン・ゲイの1971年の名曲「What's Going On」へ。EXILE ATSUSHIはキーボードを弾きながら歌い、小粋なプレイすら聴かせた。この段階でボーカリスト、ミュージシャン、エンターテイナーとしてのEXILE ATSUSHIに感嘆してしまったが、ライブはまだ3曲目である。

 正直、冒頭の流れには「これほど趣味性を押しだしてくるのか」と驚愕したが、そこはやはりEXILE ATSUSHIである。6曲目からは日本の名曲のカバーが続いた。中島みゆきの「糸」、サザンオールスターズの「慕情」、尾崎豊の「I LOVE YOU」と続いたので、さきほどまでのマーヴィン・ゲイから急展開だと感じたほどだ。とはいえ、日本的な叙情性に包まれた「糸」では、EXILE ATSUSHIによる男性性が薄いボーカルが新鮮だった。「I LOVE YOU」では、せつなさの中に色気をも感じさせた。

 ジャズ・スタンダードの「Smoke Gets In Your Eyes」では、羽毛のように繊細で軽やかな歌唱が印象的だった。こうしたジャズ路線は、それこそブルーノート東京でやってもいいようなことを東京ドームでやっており、そこにEXILE ATSUSHIの凄みを感じた。

 EXILE勇退の噂を笑って否定するMCは、まさか海外への活動拠点移転が待っているとは感じさせなかった。そして、斉藤和義の「歩いて帰ろう」へ。ピアノはニューオリンズ風味だった。

 そこから美空ひばりのカバー2曲へ。歌われたのは「川の流れのように」と「愛燦燦」だが、名曲「愛燦燦」は歌い手の力量が露骨に出る楽曲でもある。その「愛燦燦」で、EXILE ATSUSHIは人生の喜怒哀楽の機微を歌いあげてみせたのだ。

 EXILE ATSUSHIによるグランドピアノの弾き語りでは、「Lost Moments ~置き忘れた時間~」、そしてオフコースの「言葉にできない」が歌われた。

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