清木場俊介『友へ』は、どのようにして生まれたのか? “奇跡の共演”から動き出した新たな物語

清木場俊介とEXILE ATSUSHIの新たな物語

 清木場俊介の21thシングル『友へ』(2月8日発売)は、EXILE ATSUSHIへの思いを唄った楽曲。その誕生の背景を、音楽ライター・藤井鉄幹氏の取材メモをもとに迫る後編。前編では、清木場がSHUNとしてATSUSHIと走り抜けたEXILE第一章から、2006年の脱退。唄い屋としてソロ活動を始めた清木場と、EXILE第二章に進んだATSUSHI、それぞれの道を歩みながら、2014年にコラボ・レコーディング果たすまで、二人の軌跡を振り返った。真逆の個性を持ちながら、最高の相棒であり、最高のライバル。2014年の“奇跡の共演”から、再び別々のスタイルで表現者として観客を魅了する二人の足跡が、再び重なるときが来る――。

「SHUNちゃん、ドームに出てくれない?」

 2016年の清木場は、ピンチを迎えていた。6月からスタートする全41公演におよぶライブハウスツアー『RUSH』に向けて、新曲のレコーディングをレコード会社から提案されたのだ。ツアー前半終了のタイミングでリリースし、後半を加速させようという計画である。提案を受け入れた清木場は、さっそく新曲の制作に取り掛かったが「20曲以上作ったと思います。それでも……」コレだ!と思えるものがなかなか生まれない。容赦なく締め切りが迫る。

 そんなとき一通の連絡が入った。ATSUSHIからだった「ちょっと相談したいことがあるんだけど」たまに利用する静かなバーで二人は再会し、グラスを合わせる。「SHUNちゃん、(東京)ドームに出てくれない?シークレットゲストとして」言いよどむことのないATSUSHIの依頼に、清木場の動きは一瞬止まった。何を唄うか、何曲唄うか、具体的な計画はATSUSHIにはなかった。あったのは、直接清木場に会って、自分の口から出演依頼がしたかったという誠意だ。二人には二人にしかわからないこと、顔を合わせれば言葉以上に伝わるものがあるのかもしれない。その場でスケジュール確認をして、偶然にも8月28日は余裕があった。ATSUSHIの想いを受け止めた清木場だったが、即答は控えた。だが、その日のことを何か形に残したいと、二人で手を握る写真をスマホで撮った。それが、後の「友へ」のジャケットになるのだから、本当に二人をとりまく運命的な行動に心が揺さぶられる。

 即答しなかった理由を清木場は藤井氏のインタビューにこう答えた。「3日くらい考えました。最初に思ったのはファンのこと。ソロで10年やってきて“清木場俊介”を支持してくれる仲間がいるわけで。その仲間がどう思うかなと。シークレットゲストですから、事前の告知はできないわけで。次が家族のこと。EXILEを辞めたとき、なかには“裏切り者”みたいな言葉を投げかけてくる人もいて。それを見たり聞いたりした家族が辛い思いをしたのを知っていますから。特に母親ですね。誘ってくれたATSUSHIには申し訳ないけど、母親にまた辛い思いをさせてまでやろうと思えなかったのも事実です。自分のソロだったら、自分がどこで何をやろうが、自分でケツを拭けるけど、ATSUSHIの土俵にのるわけだから……。一応、家族にも相談しました。そしたら母親が“私もまた二人で唄ってる姿を見たい”と、迷わず応援してくれました」それでもATSUSHIからのオファーに返事は、すぐにできずにいた。

ATSUSHIへの想いを唄ってみよう

 何カ月も納得のいく新曲が生み出せないでいた清木場は、自分の中でひとつの賭けをした。時刻は夕方6時。「夜の12時までにコレだ!と思える曲ができなかったら、そのときはしばらく音楽から距離をおいたほうがいいかもしれない」

 レコーダーをまわし、ギターを抱えて手探りにハミングをしていると、ふと保留にしているATSUSHIからのオファーが頭をよぎった。すると、どこからともなくメロディがやってくる。どこに着地するかもわからない歌詞が口をつき、次々とつながっていく。「コレだ!」深夜の仮歌録音、視聴する清木場の頬には涙が伝っていた。

「音楽をやればやるほど、曲を書けば書くほど、いわゆる“降ってくる”なんてことが少なくなると思います。でも、あのときは運命というか、劇的でした。出会った頃、一緒に唄ってる頃には書けなかった唄。やっと書けるときがきた唄です。今回改めてわかったことは、僕の場合、唄を書く理由というか、動機が大事だってこと。それなりの年齢になると、無意識のうちに防衛本能みたいなものが働くのか、傷つきたくないから、自分のなかの唄を書く理由を突き詰めなくなるんですかね。その結果、知らず知らずのうちに当たり障りのない、毒にも薬にもならない唄になってしまっていたのかもしれませんね。だから、なかなか自分で納得できなかったのかもしれません」

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