小野島大の新譜キュレーション 第9回
Eccy新アルバム、日本のヒップホップ・シーンのメルクマールとなるか? 小野島大の新譜8選
前回シングルを紹介した東京在住のトラックメイカーEccyの7年ぶりニュー・アルバム『Narrative Sound Approach』(KiliKiliVilla)が、期待を遙かに上回る素晴らしい作品になりました。早くも今年度のベスト・アルバムの有力候補の誕生です。
ここ数年派手めのクラブ向けダンス・トラックや、攻撃的なエレクトロニカを作っていたEccyが、彼本来のメランコリックで優美な叙情を取り戻し、スピリチュアルで深遠な内面性を感じさせる作品を作りました。透明感のある美しく広がりのあるサウンド・プロダクションも、Shing02やあるぱちかぶとらの参加したボーカル・トラック5曲とインスト6曲が交互に登場するアルバムの構成も完璧で、Eccy自身にとっても、また日本のヒップホップ・シーンにとっても、これはメルクマールとなる作品ではないでしょうか。発売中。
KiliKiliVilla/Eccyインタビュー
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2014年現地リリースのアルバムながら、長い間入手困難な状況が続き、最近になってようやく日本盤化され、ひそかな話題になっているのが、エミネ・ジョメルト(Emine Cömert)の『Horon』(calentito)。
トルコの黒海沿岸の民俗音楽ホロンの女性歌手のソロ・アルバムです。ミュージック・ビデオをご覧になっていただければわかる通り、民俗衣装を着た女性たちがラインダンスのように奇妙なステップを踏む、時代から取り残されたような素朴な民俗舞踏音楽ですが、リカルド・ヴィラロボスなど南米あたりのミニマル・テクノに通じる強烈にヒプノティックでトランシーな、いわば辺境ミニマル・フォークロアとでも言うべきユニークなダンス・ミュージックとなっています。ケメンチェという弦楽器と、ドタドタと速いテンポの変拍子を打ち付ける両面太鼓ダウルのみをバックに歌うエミネ嬢のボーカルも味。これはもう、絶対にフジロックのフィールド・オブ・へブン案件ですね。発売中。
テキサス出身、シアトル在住のルシーン(Lusine)ことジェフ・マックルウェインの『Sensorimotor』(Ghostly International/PLANCHA)。 90年代の終わりからL'usine、Lusine Iclなどさまざまな名義で活動する多作家ですが、Lucine名義としては4年ぶりの新作です。初期のころは割合にこじんまりとまとまったオーソドックスなIDMだった記憶がありますが、やがてハウスやアンビエント、ジャズ、R&B、ダウンテンポ・エレクトロニカなどさまざまな要素を複合したメランコリックでドリーミーなサウンドを展開するようになりました。今作もティコ、ゴールド・パンダ、シゲト、マシュー・ディアらを要する精鋭レーベル<Ghostly International>らしいスタイリッシュでロマンティックで美しい電子音楽の傑作です。3月3日発売。