『題名のない音楽会』出演直前! ジェフ・ミルズが語る、クラシックとテクノの新しい関係

J・ミルズ、テクノとクラシックを語る

 ジェフ・ミルズは言うまでもなくデトロイト・テクノのオリジネイターとして、シーンの黎明期から後進に絶大な影響を与え続けてきた偉大なDJ/プロデューサーである。と同時に、彼はテクノ/エレクトロニック・ミュージックの表現領域を激しく拡張するようなさまざまな意欲的な試みを行ってきた。シンフォニー・オーケストラとのコラボレーションもそのひとつだ。2005年フランスにおけるモンペリエ国立管弦楽団との共演『Blue Potential』を皮切りに、ヨーロッパなど世界各地で行われているこの公演は大きな反響を巻き起こしている。

 そしてこのクラシックとテクノのコラボレーションがこの3月、ついに日本でも行われ、絶賛されたことは記憶に新しい。東京フィルハーモニー交響楽団との共演による、テクノの躍動感とクラシックのダイナミズムが、グルーヴという一点で弁証法的に止揚したようなパワーとエネルギーの奔流、圧倒的な高揚感は、確かに新たな音楽体験であり、ナマで体感してこそのものだと実感できたのだった。

 そして6月に再来日したジェフは、今度はテレビ朝日の人気番組『題名のない音楽会』の公開収録で、再び東京フィルと共演した。この模様は来る9月11日に放映されるが、これにあわせジェフのインタビューをお届けする。『題名のない音楽会』の公開収録の数日前に行われたもので、彼とクラシックの関わり、コラボをやるようになったきっかけなどについて話してもらった。同時に、クラシック・オーケストラとの新たなコラボ作品となるニュー・アルバム『Planets(惑星)』(来年発売予定)についても、詳しく訊いている。テクノ界きっての明晰な頭脳と言葉を持つ哲学者・ジェフの貴重な発言をぜひご一読いただきたい。(小野島大)

「オーケストラのレベルより、指揮者が大切」

ーー少し前の話になりますが、3月21日の『爆クラ!』での東京フィルハーモニー交響楽団(指揮・栗田博文)との共演について、感想をお聞かせ願えますか。

ジェフ:長年企画してきたものだったので、とても感慨深かったし、素晴らしい時間でした。皆さんからの評判も大変に良かったようで、本当にやってよかった。ヨーロッパなどではかなり数をやってきた公演なので、それをようやく東京に持ってこられたことが嬉しかったですね。

ーーDVDなど映像では拝見していましたが、やはりナマで見ると迫力が全然違いました。素晴らしいライブでした。

ジェフ:やはりフル・オーケストラをホールで、ナマで聴くと迫力がまったく違いますね。

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Jeff Mills: The Planets at Amsterdam's Concertgebouw.「Robeco SummerNights 2016(2016.8.30)(c) De Fotomeisjes

ーー今お話いただいたように、世界各地で同様の公演をやられていますが、そのつど違う現地のオーケストラと共演されてますね。公演地ごとにやる相手が違うというのはどうなんでしょうか。

ジェフ:うーん、レベルが多少違ったりすることは確かですね。でも今のところ指揮者の方に恵まれていますし、オーケストラのレベルよりそちらの方が大切だと思うんです。というのも、指揮者が各奏者に、この楽譜はこういう解釈でやってくれと説明して導いていくわけですから。デリケートなパートはよりデリケートに、ダイナミックなパートはよりダイナミックに、とか。特にビートが大切なんですが、遅れないように、オンタイムできちんとビートに乗ってもらうことを特に気をつけながらやっています。

ーーその昔チャック・ベリーは世界ツアーで、単身で乗り込んで現地で即席のバンドを組んで公演する、ということをやっていたようです。当然バンドのレベル差も大きく、それでうまくいかずイライラすることも多々あったようですね。

ジェフ:なるほど(笑)。チャック・ベリーの例に比べれば、オーケストラのメンバーはもう少しきちんとしたトレーニングを受けたプレイヤーがやっているでしょうし、ある程度のレベルには達していると思います。なのでチャック・ベリーのような経験はたぶんしていないと思いますね(笑)。どちらかといえばエレクトロニック・ミュージックやポップ・ミュージックを聴いていて理解があるかどうか。そちらの方が大きいポイントではないでしょうか。

ーーやはりそうした音楽に親しんでいるといないでは、演奏のノリや調和の仕方が変わってきますか。

ジェフ:違ってきますね。今のところ私が共演したオーケストラは、映画音楽やポップ・ミュージック(をオーケストラにアレンジした音楽など)の演奏経験がある人たちが多かったので、そういう意味では私の音楽を理解してもらえていると思います。

ーー来週(6月7日)『題名のない音楽会』で再びオーケストラと共演されますが、同じ東京フィルでも指揮者が違うとお聞きしています。指揮者が代わるとかなり違うものなんでしょうか。

ジェフ:違ってきますね。『題名のない音楽会』での指揮者はユウガ・コーラーさんというアメリカの方(日米ハーフ)で、26歳と、とても若い方なんです。そういう意味で前回とは違うものになると思います。若いのでポピュラー・ミュージックへの理解もあるでしょうし、そうした形でミュージシャンたちとうまくコミュニケーションしてくれるんじゃないかと期待しています。

ーークラシックの音楽家と共演する際に気をつけることはなんでしょうか。

ジェフ:ひとつには、楽譜の中のあるパートに、内容というよりは弾き方のニュアンスが複雑な箇所があるので、そういうところを丁寧に説明するようにしています。もうひとつ、エレクトロニックな機材と生の楽器のシンクロがぴったり合うかどうかは、一番気を遣うところですね。それでも3回、ゲネプロを入れても4回リハーサルをやれば、だいたい形になりますね、経験上。クラシックの音楽家とやる場合、最初のリハーサルは電子機材の音に慣れてもらうことから始めなければならず、それで終わってしまうことも多いです。

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