Suchmosは音楽のバトンをどう繋ぐ? 好セールス作『THE KIDS』がシーンに残すもの
そして、Suchmosがここまで急激に受け入れられたのには、メンバーの余裕を感じさせる佇まいも大きいと思える。特にフロントマンのYONCEは、恵まれたルックスに加え、ステージでの軽やかな振る舞い、飄々とした態度と、すでにカリスマとも呼べるような存在感を示している。前述した『TOKYO CULTURE STORY』において、現在を代表する存在としてYONCEが出演していたことは記憶に新しい。その後の3カ月あまりで、名実ともに時代のアイコンになったと言っても過言ではないだろう。
そして、早くも彼らが語っているのが、後進ミュージシャンへの意識である。メンバーは自分たちの音楽のルーツに自覚的であり、自らもそこから連なる系譜の上に立つ存在であることを強く意識している。そして自分たちを中継点として次世代に音楽のバトンを繋ごうとしており、『THE KIDS』というアルバム名もその思想とは無関係ではない。かつて渋谷系と呼ばれたバンドが自身のルーツを楽曲に混ぜ込んだように、Suchmosも自身のルーツを楽曲に混ぜ込むが、彼らのそれは同族に対しての目配せではなく、次世代に向けての啓蒙意識の表れだろう(バンド名自体もジャズトランペット奏者ルイ・アームストロングの愛称からの引用)。それをどう受け取るかは、次世代を担うリスナーに委ねられている。
友人同士で集まって音楽を聴くところから始まったこのバンドは、一躍若手バンドを代表する存在となった。彼らがよく目標として掲げている横浜スタジアムでのワンマンライブもいよいよ現実味を帯び、スタジアムロック然とした「A.G.I.T.」を『THE KIDS』の1曲目に置いたことは、その決意とも取れる。Suchmosはユースカルチャーを率いていく存在として、今後その存在感をますます増していくことだろう。彼らの動きに触発されてまた別のところで新たな動きが生まれる、そんな連鎖の引き金に、Suchmosはなろうとしているのだ。
(文=渡邊魁)