新作『Fantôme』インタビュー
宇多田ヒカル、新作『Fantôme』を大いに語る「日本語のポップスで勝負しようと決めていた」
「今回の制作は『受け入れて、受け入れられる』というプロセス」
——本作の宇多田さんのボーカルは、以前よりグッと力強くなったという印象を受けます。あとは日本語を丁寧に伝えようとする姿勢が感じられます。
宇多田:日本語のポップスで勝負しようと決めていたので、言葉をしっかりと伝えたくて、以前よりも意識して丁寧に歌いました。
——その歌をクリアに伝えるためか、アレンジも厳選に厳選を重ねた音だけが鳴らされているように感じられました。
宇多田:やっぱり日本語の唄は声と歌詞が前面に出てこないと成立しないので、トラックは極力少な目にしました。そういえば最近好んで聴いていたのも、Rhye、HOT CHIP、 D'Angelo、Atoms For Peace、THIS MORTAL COIL、Julie Londonとか、トラックが少なくて聴きやすいものばかりでしたね。
——個人的に、ラストの「桜流し」から、また一曲目の「道」に戻って繰り返し聴く感じが好きです。物語がループする感じというか。
宇多田:ありがとうございます。そこはこだわりました。「桜流し」は最後にしか置きようがなかった曲でしたね。これまでは製作チームに打診されたものをみんなで議論しながら固めていたのですが、今回は初めて自分で曲順を決めました。いろいろな意味で、私自身、自分のプロジェクトのリーダーという立場に進んで納まった制作となりました。母を亡くしたことや自らが母親になったことで、急激に大人にならざるを得なかったけれど、必死に前へと進んだことで、今までに無い自信を得ることができました。
——では最後に、まだ完成を迎えて間もないタイミングですが、『Fantôme』は宇多田さんにとってどのようなアルバムになったと思いますか。
宇多田:今回のアルバム制作は「受け入れて、受け入れられる」というプロセスでした。作ること自体が究極のセラピーだったというか。母の生前はいろいろなことを公にできず、自分を制限していた部分もあったのですが、彼女の死とともに全てが公になって、自分に課していたセンサーシップ(=検閲)のようなものが無くなった。彼女が亡くなってすぐの頃は「もう音楽なんて書けないかもしれない」と思っていましたが、いざ書き初めてみると、羽ばたくぐらい自由に言葉が選べました。またその分、言葉の持つ力や難しさもあらためて感じました。
——表現が直接的にお母様を連想させる歌詞もそうではない歌詞も、極めて私的なモチーフを起点に生まれた曲が、多くの人と共有可能な高いクオリティのポップソングへと結実している。その手腕にただただ感心させられました。
宇多田:でも“お母さん”って最もポップな題材じゃないですか。多分ほとんどの人にとっても、母親か、もしくはそれに当たる存在がいるわけで、そこから自分の核なる部分や、自分だけの世界を形成していくわけでしょ? それってめちゃくちゃポップなことだと思うんですよ。
——そうか。そう言われると目の前が開ける思いです。
宇多田:それで「花束を君に」を好意的に受け入れてもらえたんじゃないかという気もするし。だからいまはリスナーさんに対して、これまでで一番強く信頼を感じています。一曲目の「道」の歌詞でボツにしたフレーズで“もう大丈夫”というのがあったんです。「もう大丈夫」ってみんなに言いたかった。そういうアルバムだったんじゃないかな。今後も音楽は続けるけど、こんなアルバムは二度と作れないだろうと思っています。
(取材・文=内田正樹)
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■リリース情報
宇多田ヒカル『Fantôme』
発売:9月28日(水)
税抜価格:¥3,000
<収録曲>
01. 道
02. 俺の彼女
03. 花束を君に(NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」主題歌)
04. 二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎 (レコチョクTVCM)
05. 人魚
06. ともだち with 小袋成彬
07. 真夏の通り雨(日本テレビ「NEWS ZERO」テーマ曲 )
08. 荒野の狼
09. 忘却 featuring KOHH
10. 人生最高の日
11. 桜流し(「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」テーマソング)
■配信情報
iTunes『Fantôme』
レコチョク『宇多田ヒカルスペシャルページ』
■MV公開情報
<GYAO!>「二時間だけのバカンス」MV
<GYAO!>「桜流し」(ヱヴァQバージョン)MV
<iTunes>「二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎」MV
■関連リンク
宇多田ヒカル オフィシャルサイト
『#ヒカルパイセンに聞け』特設ページ