柴 那典の新譜キュレーション 第5回
フランク・オーシャン、カイゴ、サニーデイ・サービス…2016年夏の記憶に刻まれる5枚
邦楽のリリースではサニーデイ・サービスの新作『DANCE TO YOU』を繰り返し聴いていた。再結成後3作目となるニューアルバム。軽やかでポップなんだけれど、その奥のほうに狂気性のようなものを感じて、聴けば聴くほど深みのある一枚になっている。
すでにいろんな場所で語られているけれど、レコーディングは1年半以上の長期にわたって、予算も大幅に超過して、数十曲をボツにしながら進んでいった。僕は去年の夏に『AERA』のルポルタージュ取材で曽我部恵一さんに密着していて、その時にレコーディング・スタジオにも訪れていたので、結局収録されなかった曲を聴くことができている。それも、サニーデイ・サービスらしい繊細で素敵な曲だった。少なくともボツにするようなレベルでは全くなかったのだけれど、それを全部捨て、そこから1年近くかけて全く別のアルバムを作り上げた。そういう執念のようなものが奥の方に宿っている。
そういえば、90年代も、サニーデイ・サービスってそんなバンドだったよなあと思い出した。全16曲が本編の12cmCDにおさまりきらず、ボーナス・ディスクとして10分超えの「ベイビー、カム・ヒア組曲」を収録した8cmCDが付属したという、混沌をそのまま作品化したような『24時』。ドラムの丸山晴茂がほとんどレコーディング・スタジオに顔を出さず、もはやバンドが空中分解するなかでハウス・ミュージックの多幸感を描きだした『LOVE ALBUM』。
頭のなかにある理想と目の前の現実が齟齬をきたして、葛藤を繰り広げる中で、ギリギリのところでロマンティシズムが勝利する。そういうカタルシスが、僕がサニーデイ・サービスというバンドに対して感じている魅力なのかもしれないと、『DANCE TO YOU』を聴いて改めて思った。
暑くてどうしょうもない日は、がんがんに冷房が効いた部屋の中で、ザ・なつやすみバンドのニューアルバム『PHANTASIA』をよく聴いていた。
「毎日が夏休みであれ!」という信念のもと結成された4人組。中川理沙の透明感あるボーカルと、MC.sirafuのスティールパンやトランペットを用いたトロピカルなサウンドで人気を高めてきたけれど、この『PHANTASIA』というアルバムで、その作品性がぐっと高まったような気がしている。
スカート、ミツメ、シャムキャッツ、片想い(こちらもMC.sirafuが所属している)など、東京のインディー・ポップ・シーンに属するバンドたちが次々と充実作をリリースしているのが2016年の夏のトピックの一つだ。
その中でもザ・なつやすみバンドは<SPEEDSTAR RECORDS>からメジャーデビューを果たしていて、そのことにも大きな意味合いがあるなあ、と思う。
というのも、おそらく2010年代の音楽シーンを後から振り返った時に、その重要な担い手として挙げられるのは星野源とceroになるだろうと思っているから。ということは、レーベルとしては、ceroが所属する<カクバリズム>と、そこを経た星野源がメジャーで所属する<SPEEDSTAR RECORDS>がマッピングの中心に位置づけられることになる。あえて90年代の渋谷系になぞらえるならば、これらのレーベルが<クルーエル>や<トラットリア>のような役割を果たしている、とも言える。
そうやって見ていくと、カクバリズムからリリースされた1stアルバム『TNB!』が反響を巻き起こし、<SPEEDSTAR>からデビューしたザ・なつやすみバンドも、今起こっている音楽ムーブメントの、まさに渦中にあるバンドと言うことができる。
まあ、そういう七面倒臭いことがいろいろ考えなくても、とても心地いいアルバムです。リード曲にはなっていないけれど「O.V.L.U.V part2」が一番好き。