「アイドルは楽曲が良くて当たり前」の時代に 乃木坂46チャート首位からシーンを俯瞰

参考:2016年05月23日~2016年05月29日週間CDアルバムランキング(2016年6月6日付)(ORICON STYLE)

 先日の原稿で取り上げた小田和正のベストアルバム『あの日 あの時』が引き続きランクイン。(参考:小田和正などベテラン勢「オールタイムベスト」ヒット続く “一度整理”されたJPOPが向かう先は?)発売時に購入した濃いファンだけでなく、「熱心に追いかけているわけではないが代表曲をまとめて聴きたい」というタイプのリスナー(サブスクリプションサービスを使っていない年配層に比較的多そうである)やこのアルバムを入門編として楽しもうとする人など、様々なタイプの人々が各自のタイミングでこの作品を手に取っているのが容易に想像できる。2002年にリリースされたベスト盤『自己ベスト』も300位以内に500週を越えるランクインを果たすという息の長い売れ方をしていたが、今回もその再現となるか。

 さて、今回ピックアップしたいのは1位の乃木坂46『それぞれの椅子』。昨年1月にリリースされた前作『透明な色』に引き続いての初登場1位獲得であることに加えて、初週売上は約5万枚の上乗せとなっている。最近発表された上半期の写真集ランキングでは生田絵梨花『転調』が広瀬すずを抑えて1位となるなど、グループとしての勢いはまだまだ陰りを見せていない。

 ご多分に漏れず複数タイプでのリリースによって枚数をある程度稼いでいることが予想される『それぞれの椅子』だが、そういった「商法」のために急ごしらえされたという印象はかなり薄い。冒頭からシングル曲が4曲続く構成には若干辟易するが各曲に施されている丁寧なアレンジ(改めて「命は美しい」をイヤホンで聴いていたら、繊細にコーラスが重ねられていることに気づいて驚いた)のおかげであまりストレスを感じずに聴くことができるし、その直後に収録されている杉山勝彦作曲の「きっかけ」はグループの代表曲「君の名は希望」(同じく杉山勝彦作曲)を更新しようという意思が感じられる名曲になっている。その他にも、サビでの西野七瀬の凛とした歌唱と90年代J-POP風味の明るいトラックの組み合わせが心地よい「光合成希望」や、以前『乃木坂って、どこ?』にて放送されたGLAY「誘惑」をカラオケで熱唱する姿とのリンクを感じさせる生田絵梨花のソロ曲「低体温のキス」、齋藤飛鳥、星野みなみ、堀未央奈の3人によるスカテイストの「Threefold choice」など語りたくなる楽曲が多数存在しており、聴いていて楽しいバラエティに富んだ作品になっている。かと言って「いろいろあってとっ散らかっているアルバム」というわけでもなく、どの楽曲にもグループの特徴でもある清廉さが通底しており作品としての統一感も担保されている(ちなみに「光合成希望」と「低体温のキス」「Threefold choice」は異なるタイプのCDに収録されているが、配信では「Special Edition」として全ての楽曲がまとめられているため何種類もCDを購入しなくても気軽に聴くことができる)。

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