リミックス・アルバム、『KAWA-EDM』インタビュー
DJ'TEKINA//SOMETHINGが語る、アイドル×EDMの可能性「新しいジャンルが生まれる」
「リミックスはいかに『楽曲を引き立てられるか』」
――そこはやっぱり、通常のDJではなく「的な何か」ならではの発想ですよね。それぞれの曲についてどんな風に選んで、作業においてどんな工夫をしたのかを教えていただけますか? まずは1曲目、BABYMETALさんの「ヘドバンギャー!!」から。
テキサム:「ヘドバンギャー!!」のリミックスは、もともとBABYMETALさんのライブの特典CD『イジメ、ダメ、ゼッタイ 世直し盤』に収録されたもので、原曲を尊敬する大先輩NARASAKIさんが担当していることもあって、がっつり作らせていただきました。NARASAKIさんの原曲を「今の技術を使ってどんなことが出来るかな」と、今回少し改変させていただいたんです。
――原曲のヘヴィな雰囲気が、派手目のダブステップの要素で表現されています。
テキサム:そうですね。ドラムステップとUKハードコアの融合を目指して作ったものでしたが、正直最初に作った頃は、自分でもそこまで細やかなジャンル分けは理解できていませんでした。でも、その初期衝動を残した方がいいと思って1曲目に持ってきたんですよ。2曲目のでんぱ組.incさんの「でんでんぱっしょん」は、もともと『でんでんぱっしょん(初回限定 相沢梨紗盤)』に収録されたものです。純粋に原曲が好きで、ドラムンベースを使ってその楽しさを表現しました。ウォブルベースの入れ方も、ドロップ/サビの入れ方も「楽しい」という意味で突き抜けていて、その雰囲気から2曲目にしました。序盤で強いパンチをくらわせて「こういう作品だぞ」「楽しいぞ」って思ってもらいたくて(笑)。「そろそろはじまる」という語りから曲がスタートするのもポイントですね。EDMって、そういうバカバカしさもありにしてしまえる音楽だと思うので、それなら日本的な観点でやってみよう、と。
――そして3曲目は編曲で関わったことがあるDream5さんの「シェキメキ」ですが、すごく清涼感のあるエレクトロ・アンセムになっています。
テキサム:ディズニーのコンピレーションに収録された楽曲をやらせていただいたんですけど、その後ライブ・イベントにお邪魔したら本当にいい子たちで。「シェキメキ」は楽曲がすごくキャッチーだし、BPMもいい形に落とし込めるんじゃないかと思って作業しましたね。「ここからかけて欲しい」と考えてキックインも作っているので、DJユースも意識した曲です。
―― 一方でSUPER☆GiRLSさんの「プリプリ SUMMERキッス」は、リミックスに際して原曲で存在感のあるホーンを取り除いているのが面白いですね。
テキサム:僕なりに(MVに通じるような)夏のギャルたちの可愛さを出したかったんですよ。あと、この曲で何をやりたいか考えた時に、「夏のカワイイギャルを遠くから見てたい」というコンセプトがあって(笑)。下世話ではない、夏の清涼感のあるものに仕上げました。次の「夏祭り」は、もともと自分がDJをする際に助けられた曲。僕は(JITTERIN′JINNによる)原曲をリアルタイムで知っている世代ではないので、Whiteberryさんの「夏祭り」をリミックスして「フェスでまたかけたい」と思って。この曲はゆよゆっぺにギターを弾いてもらいました(笑)。
――ゆよゆっぺさん、忙しそうなのに今回もよく参加してくれましたね(笑)。
テキサム:時間がないところをお願いして……(笑)。この曲は、それぐらいバンド・サウンドを生かすべきだと思ったんです。イントロのギター・フレーズをシンセで弾くと「夏祭り」っぽさがなくなるので、原曲の雰囲気を頑張って残しました。
――続く6曲目、ウェザーガールズの「恋の天気予報」は、サビで一度落とす展開などで原曲のメロディのよさを際立たせているのが上手いと感じました。
テキサム:原曲は編曲もMVの見せ方もアイドルとしての可愛さを上手く作っていると思うんですが、本人たちに会った時に、歌も上手いし、ダンスも凄いし、ポテンシャルが高いということを感じました。そこで今回は、「かっこいい」に振って、グリッチホップにしてみたんです。サビで一度ブレイクさせて、そこからビルドアップしてちゃんとドロップを作るという形で、歌のキレを生かしたいな、と。クラブ・ユースを想定して作った曲で、僕も現場でよくかけることになると思いますね。7曲目の東京女子流さんは、尊敬するkzさん(livetune)が「Liar」をグリッチホップ風にリミックスしていて、超かっこよかったんです。だから最初はどの曲にするか迷いました。でも、ここは明るいとは言えない「鼓動の秘密」を、少しギークな音符の細かいEDMに落とし込もうと挑戦したんです。
――アルバム前半のアゲアゲな雰囲気と綺麗に対比されていますね。
テキサム:曲順も考えました。入口から出口までをどう感じてもらえるかを考えて、間口の広い音から自分の好きな音楽に誘導したりと、色んなジャンルがあることを表現したかったんです。
――次はBiSさんの「IDOL」ですが、この曲にはトラップの要素が入っています。
テキサム:BiSさんは、他のアイドルさんとはまた違ったベクトルで「この人たち、強すぎるだろ」という意味で好きという(笑)。「IDOL」自体もバンド・サウンドの尖った曲なので、リミックスも尖ったものにしたかったんですよ。そこで、ディプロとスクリレックスによるジャック Üなどが取り入れているトラップやトゥワークを入れました。僕は基本的に派手な音楽が好きなタイプなので、トラップは今回作るまで全然面白いと思っていなかったんですけどね。
――トラップは落とすことでアゲる音楽ですしね。しかもそのビートに倍速で乗るということを理解していないと、踊りにくい音楽でもあります。
テキサム:僕も元々そうだったので分かるんですが、日本やアジアの人ってキックとスネアにしか乗れないというか、空白のある音に自分でビートを生成することが得意じゃないですよね。トラップってそこに重点を置いた音楽なので、この曲はチャレンジでした。これは僕の音楽論のひとつでもあるんですけど「食わず嫌いはよくない」と思っていて、やってみたらめちゃくちゃ楽しかったんです。生成する低音もこだわったらキリがないし、ハットワークも無限大だと感じたし、作っている最中にも色々な発見がありました。
――次はCheeky Paradeさんの「チェケラ」。この曲は原曲もEDMっぽい要素がある曲です。
テキサム:大好きなヒゲドライバーさんが作った曲で、<♪チェケラ~チェケラ~>ってめちゃくちゃキャッチーですよね。作業をする中で「ヒゲさん、やっぱりすごいな」と思いました。完成されていて隙がなかったので、サウンドをデラックスにして派手さを出すことにしました。他の曲ではサビが引き立つと思ってドロップを入れたりしていますけど、この曲ではそれもただの蛇足にしかならないというか。「曲のためにならなかった」んです。
――その考え方は恐らく、今回のアルバム全体の雰囲気にもかかわる話ですね。
テキサム:やっぱり、リミックスっていかに「楽曲を引き立てられるか」だと思うんですよ。