1stアルバム『World`s Magic』リリースインタビュー
大所帯ポップバンド Special Favorite Musicが目指す“プリミティヴなポップス”「常に空き地を探して、自分たちのゲームをしていたい」
バイオリン、トランペット、サックスなどの管弦楽メンバーを含む、大所帯ポップバンド・Special Favorite Musicが5月4日、1stアルバム『World’s Magic』をリリースした。同バンドは、2014年にクメユウスケ(Vo.&Gt./NOKIES!)ら関西のミュージシャンを中心に結成した、ネオソウルやR&B、海外のインディーミュージック、歌謡ポップスなど、多種多様なルーツ・バックグラウンドを持つ音楽集団。メンバーも関西のインディーシーンで活躍する面々や、音楽的な教養のあるプレイヤーが集結し、ジャンルを越境した豊潤なサウンドを鳴らしている。今回リアルサウンドでは、彼らの拠点である大阪にて、クメユウスケ(Vo./Gt.)、オクダナオヒロ(Gt.Syn)、フルカワユウタ(Sax.)、シンジョウカツヤ(Per.)、ラビンユー(Vo.)の5人へインタビューを行ない、バンド結成の経緯や作品を作ることで起こった変化、現在のバンドシーンについてや、彼らの考える良質なポップスについて、じっくり話を訊いた。(編集部)
「自分のフォローしてきた範囲とは別の方向から、違う音楽が入ってくる」(クメ)
――クメさんのことは、2011年にNOKIES!というバンドのフロントマンとして知ったのが最初なのですが、Special Favorite Musicは当初NOKIES!とは別に、流動的にメンバーが変わるソロプロジェクトとして立ち上げたものですよね。
クメユウスケ(以下、クメ):そうですね。自分のソロアルバムを作りたくて、みんなに声を掛けたところから始まったんです。その頃は各自の活動もあり、流動的にならざるを得ないかなと思ってたんですが、結局最初の作品である『Explorers』を作ってみたら、このメンバーでやることに面白さを見出すようになりました。あとは、フルカワユウタ君との出会いが大きかった。彼が参加してくれたことで、ピースが揃った感じがして。「これはもうバンドじゃないか!」と思い、2014年の7月からバンドとして活動することになりました。
――大人数でやる面白さとは?
クメ:自分のフォローしてきた範囲とは別の方向から、違う音楽が入ってくることですね。同じ音楽でも捉え方の角度が全然違ったり。しかもメンバーそれぞれのルーツが違うので、「いま何聴いてるの?」と会話していくだけでも色んなものが出てきたので、これを表現するのが面白いだろうと。
――なるほど。ではそれぞれのルーツと、クメさんに声を掛けられたときのエピソードを聞いていきましょう。まずはクメさんと並んでバンドのキーマンであるオクダナオヒロさんから。
オクダナオヒロ(以下、オクダ):クメ君はNOKIES!のライブを見たこともあったし、知り合いとして誘ってもらいました。いまはギターとシンセサイザー担当なのですが、最初はドラムとしての参加です。レコーディングでドラムを録るのはそのときが初めてで、緊張したのを覚えています。リスナーとしては『Discogs』を眺めながらオブスキュアなレコードを探して聴くことが好きで、DJの友達とかトラックメイカーとは良くクラブとかで会って情報交換しています。何でも聴きますが、最近は<Music From Memory>から再発されたLeon Lowmanの再発が最高でした。周りでは<1080p>や<MOODHUT>界隈のハウスが流行っている感じですが、僕は根本的に歌が好きなので、歌が良ければなんでも聴きます。加藤和彦とか小室等とか。最近は昭和の歌謡曲を改めて聴くことが多いです。
フルカワユウタ(以下、フルカワ):僕はジェームス・チャンスやジョン・ゾーンといった海外のジャズミュージシャンや、ノー・ウェーブなどのポストパンクシーンのほか、菊地成孔さん、津上研太さん、大友良英さんといった方々に影響を受けていますし、最近は『Jazz The New Chapter』で取り上げているようなシーンにも興味があります。音楽としても違う畑から来ているのですが、出身も北海道で、大学卒業とともに京都に引っ越したばかりなんです。こっちの人たちと音楽をやりたいと思っていたところ、友だち経由でみんなを紹介してもらったのがきっかけで加入することになりました。
クメ:ユウタ君の尖った感じが、良い具合にアクセントとして効いてくるのも、このバンドがもつ特徴のひとつですね。
オクダ:ユウタ君、入って二回目のライブでお兄さん(古川太一・KONCOS)と共演したよね(笑)。
フルカワ:兄がRiddim saunterをやっていたとき、ライブに遊びに行ったことは何度もあって、周囲のシーンにいる人たちは知っていたので、彼らと共演することができたのは不思議な感覚でした。
――違うシーンにいた兄弟が、Special Favorite Musicを通じてリンクしたわけですね。シンジョウさんはどうでしょう?
シンジョウカツヤ(以下、シンジョウ):僕とバイオリンのハルナ、そして初期メンバーのウエキハルヒコは同じ音楽大学に通っていて。ウエキがFacebookにアップしたパーカッションの動画を見て、「面白そうなことをやってるねー」と声を掛けてきたのをきっかけに、レコーディングへ参加することになったんです。でも、ルーツは全然違うところにあって、学校では現代音楽を勉強していました。音楽の概念を哲学的に考えて追求するようなところだったのですが、ジャンルを問わずライブに行くことは好きで、ステージの上に立つ人には憧れていたので、こうしてバンドができて嬉しいです。
クメ:シンジョウ君は、歌心のあるパーカッションを叩いてくれるし、音楽を多角的だったり俯瞰的に捉えながら聴く耳がある人なんだなという印象です。
オクダ:リスナーとしてはEDMやポップスも聴いていて、程よくミーハー感もあるんですよ。
ラビンユー:私は、元々ミュージカル俳優を目指していて、大学でもクラシックの声楽を専攻して、卒業後はクラシックの歌い手として仕事をしています。is世界平和BANDというバンドでも活動していたのですが、そこで出演した『HONEY BEE PARTY!』というイベントでクメくんと知り合い、「作品を録音したいんだけど、コーラスで歌ってくれないですか?」と誘われたんです。じつは、バンドが始まる前に、私とモリシー(ACC)とクメくんの3人で、バンドの活動前にライブをしたこともあるんですよ。
――各々の活躍は何となく知っていたものの、改めてルーツを掘り下げて納得できる部分がありました。とくにラビンユーさんのボーカルがミュージカル的だというのは、今作や2作目のEP『ROMANTICS』に収録されている「GOLD」や、初めてメインボーカルを務めた新曲「Magic Hour」を聴いて思っていたことでもあったので。
オクダ:まさに、「GOLD」はユーちゃんのおかげで広がったといえる曲だし、改めて「こういう世界の中で歌う人なんだな」と感じました。
クメ:「Magic Hour」はユーちゃんをメインボーカルにするつもりで書いたんですけど、僕が歌ったデモもあって。でもやっぱり彼女の歌声を活かしたものが聴きたいと思い、自分のボーカル分をボツにしました。
――あと、クメさんのボーカルも『Explorers』やNOKIES!で表現しているものから変わりましたよね。
クメ:今回はあまり強く歌わないほうが良いなと思ったんです。僕の歌は寄り添うような形にしたくて。その分ユーちゃんのボーカルが前に出てきてくれるので。