PIGGY BANKSが示す、ガールズ・ロックのバンド魂ーー硬派かつ変化球に富んだ『タイムスリラー』

PIGGY BANKS『タイムスリラー』評

 ロック界の申し子・矢沢洋子こと、yoko(Vo)、21世紀ファズ・ギター・ヒロイン、keme(G)、元GO!GO!7188のakko(B)──各々のキャリアとプレイヤーとしてのスキルはもちろんのこと、なによりロック然とした佇まい、ステージにおける立ち絵が異様にキマる3人のロックなイイ女が集まってるのだから、ハズレのわけがない。2015年から本格活動を開始したPIGGY BANKSは、1stアルバム『タイムスリラー』でガールズ・ロックに新たな息吹をもたらそうとしている。

 リリースに先立ってミュージックビデオが公開された「Funky Monkey Ladies」。タイトルからして“あの曲”を思い出すしかないのだが、ブリティッシュなガレージ・ロックサウンドをベースに、どこかめんたいロックを彷彿とさせる硬派なワルっぽさが漂うロックナンバーに仕上がっている。音の隙間に張りつめる緊迫感にシビれる。低めのボーカルで斜に構えつつも、一気に解放されるサビでキャッチーに攻め立てる、とはいえ歌詞は〈Ahー! You!!〉しかないのだが。このシンプルな潔さも、この3人ならではの”男気”溢れるバンド魂を象徴している。

PIGGY BANKS - Funky Monkey Ladies

 しかしながら、『タイムスリラー』を通して聴いてみると、良い意味で裏切られる。直球のロックンロールだけではない、様々な変化球を投げつけてきて、懐の広さを感じさせる内容だ。抒情的フォーク「らんらんらん」や、バラード「Oct.」で聴ける美しいメロディ、反面でルーズなサウンドが病みつきになる「タイムスリラー」。ブロンディのカバー「One Way or Another」は印象的なリズムとイントネーションを独自に昇華して、日本の昭和歌謡テイストすらも感じる。クールに聴こえる英語詞とインパクトのある日本詞のギャップ、楽曲によって様々な表情をみせていくボーカルスタイルからは、yokoのシンガーとしての非凡な才能を感じられる。

 多種多用な楽曲が揃っているのは、メンバーだけでなく、yokoの作品をソロ時代から手掛けてきた古城康行をはじめ、MO’SOME TONEBENDER・百々和弘、怒髪天・上原子友康といった強力な面々が制作に関わっているからだ。それでいて、ちゃんとアルバムに一本筋が通っているのは、kemeとakkoのプレイヤー手腕によるところが大きい。野太くうねりをあげるグルーヴを弾き出すベースと、レトロでジャンクな響きを持つギター。トーキョーキラーとしても活動する2人にとって、ガレージ・サウンドは得意とするところ。kemeの“弾きすぎない”ギターは、アーシーでいなたさを漂わせながらも的確にツボを衝いてくる。「キラワレモノ」などで聴けるスプリング・リバーブたっぷりのテケテケなサーフギターから、「ゾンビーボーイ」のビザールなトーンと哮り狂うファズギター、かと思えば、「らんらんらん」の美麗なアコースティックや伸びやかなスティール・ギターまで。今、こんなにも60’sスタイルを幅広く得意とするギタリストは、女性でなくともそうはいないだろう。

PIGGYBANKS - ゾンビーボーイ(ZOMBIE BOY)

 そんな個性の強いサウンドをまとめているのは、レコーディング・エンジニアの山口州治氏である。ルースターズやARB、THE BLUE HEARTSから毛皮のマリーズまで、日本のシーンの骨太なロックバンドを数多く手掛けてきた。近年は海外エンジニアによるミックスダウン〜マスタリングなど、洋楽のテクスチャーを求めることが多くなっているが、今作はボーカルがはっきりと前面に出る、純国産の聴き応えある音像に仕上がっている。

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