乃木坂46の新曲にみる、秋元康の“仮想敵”とは? サウンドの特徴から分析

 とはいえ、一つのコード進行をずっと繰り返していく曲構成は、展開の多彩さが求められる今のJ-POPの楽曲には少ない。むし同じフレーズをミニマル的に繰り返す中で少しずつテンションを高めていくダンス・ミュージックに多いパターンだ。もしくはワンフレーズのループから作る90年代のR&Bやヒップホップにも多いパターン。この曲のBメロがラップ調になっているのも、同じコード進行の上で曲を展開させる必要性からもたらされた、いわば構造的な理由がもとになっている。

 そして、サウンドの骨組みとなっているのはEDMの要素だ。四つ打ちのリズムに、オクターブを上下するシンセベース。スネアのフィルを細かく刻むサビに向けてのビルドアップ。ブリッジでのキックの使い方も含め、ここまでダンス・ミュージック的なサウンドの骨格を持った楽曲は乃木坂46には珍しいだろう。

 しかし、そういう構造を持った楽曲から「ダンス・ミュージックっぽさ」を骨抜きし、あくまで「春らしい」印象のJ-POPに仕上げているのがこの曲のアレンジの巧みさだ。リズムの音色からは音圧が抜かれ、ベースの低音も意図的に薄くされている。その代わり、ストリングスはリッチに重ねられ、フレーズも派手に動き、耳がそちらに行くように調整されている。

 この「ハルジオンの咲く頃」の作曲は、Akira Sunset・APAZZIという2名のコライトによるもの。前作「今、話したい誰かがいる」に続いての起用で、現在の乃木坂46を支えるソングライターチームだ。スタッフからも絶大な信頼を集めている作曲家だとは思うが、しかし、こちらの記事によると(http://realsound.jp/2016/03/post-6850.html)、この曲の制作にあたっては、秋元康の意向でアレンジを何度もやり直したという。トークアプリ「755」でのAkira Sunsetと秋元康のやり取り(https://7gogo.jp/akimoto-yasushi/9134)でも、そのことに触れられている。

 秋元康の持論に「ヒット曲に大事なのは田舎の漁港のスピーカーから聞こえるかどうか」というものがある。筆者がかつて『別冊カドカワ 総力特集 秋元康』の制作を担当していた時に聞いた話だ。かつて80年代に『ザ・ベストテン』の構成作家をやっていたときに、鹿児島の漁業組合の拡声器のような小さなスピーカーで、音が割れるようなひどい音質で田原俊彦の「NINJIN娘」を聴いた。その時に「これが歌謡曲なんだ」と思った、という話。

 その後もテレビなどいろいろな場所で語っているので有名なエピソードだと思うのだが、その時に秋元康がいつも“仮想敵”として語るのが低音域なのである。「スタジオではミュージシャンやディレクターから『このベース、格好いいでしょ』と言われる。確かにJBLのいいスピーカーで聴いたら『お、いいね』となるけど、あの漁港のスピーカーからは聴こえない。だから『いいから、一番小さなラジカセを持ってきてくれ』と僕は言うんです」――てな具合に話が続く。

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