乃木坂46の新曲にみる、秋元康の“仮想敵”とは? サウンドの特徴から分析

 現在も秋元康はこれを一つの信念としている。スタジオで聴き取れるような細かいニュアンスにこだわってもマスには届かない――というのはヒットメーカーとしての一つの態度ではあると思う。

 だが、それを踏まえてAKB関連の楽曲のサウンドを高音質なヘッドホンで聴くと、どの曲においても「不自然なほど低音域がカットされている」ということに気付くはずだ。最先端のテクノロジーを駆使して田舎の漁村のスピーカーや小さなラジカセをシミュレートしているような、そんな不思議な感触がある。

 おそらく、この「ハルジオンの咲く頃」の制作過程においても、Akira Sunsetと秋元康のあいだで、そういうやり取りが繰り返されたのではないかと推察できる。曲の構造としてはダンス・ミュージックを採用しながら、そのサウンドに必須の要素である低音域の音圧を思いっきりカットすることで、乃木坂46らしいポップソングに仕上げている。

 そういう意図が突き詰められた一曲が実際にグループ最大のヒット曲となっている、というのもとても興味深い状況だ。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

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