ニューアルバム『THE LAST』インタビュー
スガ シカオが明かす、“エグいアルバム”を作り上げた理由「音楽のドキドキ感だけは譲れない」
スガ シカオが、いよいよ6年ぶりのニューアルバム『THE LAST』をリリースした。
集大成にして最高傑作と言えるアルバムを作ることを長らく目標としてきた彼。2011年に事務所とレーベルを離れて独立したのも、それを目指すためにとった選択肢であった。そして、彼にとっての「再メジャーデビュー作」となったアルバムは、小林武史を共同プロデューサーに迎えた、文字通りの勝負作。そこにあったのは、エグ味たっぷりのグルーヴと言葉が詰め込まれた、かなり挑戦的な内容の一枚だった。
果たしてどういうことなのか? かなり独創的なレコーディングの模様から、自らの本質、今の時代におけるミュージシャンのあり方まで、たっぷりと語ってもらった。(柴 那典)
「今まで絶対に開けなかった箱とかもバンバン開いた」
ーー今の時代って、スガ シカオというミュージシャンには追い風が吹いている音楽シーンの状況だと思うんです。というのも、マーク・ロンソンのように「ファンク」というキーワードを掲げたポップソングが世の中を席巻しているわけで。
スガ シカオ(以下、スガ):ああ、そうですね。ダフト・パンク以降というか。
ーーでも、今作はそういう時流にはあえて乗っていないと思うんですよね。むしろスガ シカオでしかありえないものを作ってきている。こういうアルバムに至るまでにはいろんな選択肢があったと思うんですけど、どういうところからこの今作に至る道が見えてきたんでしょうか。
スガ:それが、10周年を迎えた2007年の頃から、実は道を見失っていて(笑)。アルバムで言うと『PARADE』の後なんですけれど。
ーーそれはかなり前からですね。
スガ:それまでは自分のルーツのマニアックな音楽とポップなものをどう融合させるかを頑張ってやってきたんですけど、『PARADE』が結構売れたので、一回そこで区切っちゃったんですよね。で、「この先、俺は何をしたらいいんだろうね」ってマネージャーと二人でずっと迷ってたんですよ。そこからファンクをルーツにしたものを作ってみようということで『FUNKAHOLiC』と『FUNKASTiC』を作ったりしたんですけど、その時には道を完全に見失っていたんです。
――どういう迷いだったんでしょう?
スガ:とにかく、いろんな道があるんですよ。ポップもある、弾き語りもある、ファンクもある、どぎついのもある、みたいな。いろんな曲もできるし、選択肢がすごくありすぎて、どの扉を開ければいいのかわからない。なので、とりあえず全部開けてみようみたいな、そういう選択しかできなくなってたんですね。とりあえず全部入れよう、みたいな。
ーー幕の内弁当みたいな?
スガ:そう。幕の内弁当みたいなアルバムを作って「これでいいんだよね?」みたいな感じで。でも誰かにビシっと「こういうのやった方がいいよ」と言われたほうがいいなとは思っていて。そういうリーダーを10年前くらいからずっと探していたんですね。
ーーたしかに「デビュー20周年までに集大成となりうるアルバムを作る」と言いながら、その一方で幕の内弁当みたいなアルバムを作ってきたわけだから「自分の集大成ってなんだろう?」ってことになりますよね。
スガ:そう、まったくわからなくなっちゃってて。「集大成を作る」って言ったはいいけど「俺の集大成ってなんだ?」みたいな。だから、2011年に事務所とレーベルを辞めてインディーズになった時に、まず音楽的リーダーを探そうと思って、小林武史さんに声をかけたんです。で、『ACOUSTIC SOUL』というアルバムでヘルプに入ってもらって。「ここの歌詞はスガくんのファンにしかわからないから直した方がいい」とか「このアレンジはもっとこうした方がいい」とか。そうすると見違えるくらい曲がよくなるんですよ。このやり方だったら一緒にできるかもしれないと思って、フルアルバムを一緒にお願いすることにしたんです。それまで配信とかシングルばっかりを作ってたんですけど、いよいよ「集大成で最高傑作を作りたいんです」っていう命題ごと小林さんに投げた。それが2015年のことですね。
ーーで、最初に50曲くらいデモを作ったんですよね。それはいわば、自分のできる音楽的なチャレンジとか、得意技とか、そういうものを全部詰め込んだものだった?
スガ:そう。もう、スーパー幕の内弁当ですよ(笑)。50種類おかずの入っているスーパー幕の内弁当をまず作って、小林さんにドンっと投げた。あとは、今僕が格好いいと思っている音楽も集めて渡して。で、「どうしたらいいと思います?」って言ったんです。そうしたら、小林さんが「こういうアルバムはどう?」って提案をしてきたんですね。
ーー小林さんはヒットメイカーですし、大衆がどういうものを望むのか、嗅覚でも論理でも捉えていらっしゃる方ですよね。その小林さんが50曲から選んだのが『THE LAST』というアルバムである。これって、すごいことですよね。つまり一番エグいものが一番売れるんだ、っていうのがポイントになっている。
スガ:そうですね。僕がセルフプロデュースでやってたら、この選曲は絶対にないですよ。100%ない。もっと幕の内弁当になっていたと思う。けど、最初に「今回はもうJ-POPはいらないから」って言われたんです。「とんがっているものだけで勝負しよう」って。「そんなの俺の集大成じゃないんだけど」とか思ったんですけど(笑)。一緒にスタジオに入って作っていく中でも、どんどんエグい方にいくし、ポップな曲はないしで、不安でしたね。
――不安はあったんですね。
スガ:そりゃありましたよ。なんで不安かと言うと、やっぱりこれまではマニアックな曲調にすると、シングルでもセールスの数字が出なかったから。そうすると、誰かが責任をとらないといけない。っていうことになる。その恐怖感があって、ストッパーがかかるんですよ。でも小林さんは「ダメな結果だったら俺が責任とるからさ」みたいに言ってくれて。そこから火がついちゃったんですよね。「じゃあもう、やるだけやったるわ」みたいな。今まで絶対に開けなかった箱とかもバンバン開いて、で、結果としてこのアルバムになったという。