スガ シカオが明かす、“エグいアルバム”を作り上げた理由「音楽のドキドキ感だけは譲れない」

スガ シカオが“エグいアルバム”を作り上げた理由

「俺は自ら崖っ淵に行った」

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ーー制作ノートの中で「決め手になる」と語っていた曲がありますよね。これはどの曲ですか?

スガ:「真夜中の虹」ですね。

ーーこの曲は、今語ってもらったようなハミ出してしまう部分と誰もが共有できる部分を、絶妙なバランスで持っている曲だと思います。

スガ:だからリード曲になったと思いますね。この曲は、もとのアイディアになっていたのが、リチャード・ティーの昔のソロアルバムの中で、ティーとスティーヴ・ガッドが2人で「Take The A Train」をやってる曲なんですよ。たぶん遊びだったと思うんですけど、まあ、テンポもめちゃめちゃだし、途中でバトルになるし、そのハミ出し感たるやひどいんです(笑)。稀代の天才プレイヤーって言われた2人が、テンポを外して突っ込みまくってバトルしてる。そのスリリングさがすごくて。こういうトラックでポップな歌を歌えたら格好いいだろうなって思って、それが最初にあった自分のイメージだったんです。だからなるべく小林さんに鍵盤を弾いてもらった時も、できるだけハミ出す前提で、突っ込んで弾いてもらっている。作った時には「これだな!」って手応えはありました。

ーーアルバムの冒頭には「ふるえる手」が、ラストには「アストライド」が収録されています。これは対になっていて、これがあることでアルバムが締まる感じがあるんですが。これはどこから?

スガ:実は、小林さんには「既発のシングルとか配信はゼロにしよう」って言われてたんですよ。でも、どうしても「アストライド」は今歌いたい曲だから入れさせてほしいって言って。そしたら「最後に「アストライド」を置いて、入り口は”アストライドゼロ”を作ったらどう?」って言われたんです。なぜ「アストライド」を作ったか、その日のことを書いてみたらどう?って。で、それ、面白いなと思って。「アストライド」の中に出てくる言葉って、俺の記憶の中のどこにあったんだろうっていうのを探った時に、「ふるえる手」のところにぶつかったんです。そういえば、このくらいの時だったなって。そこから歌詞を作っていきました。

ーー「ふるえる手」はデビュー前の20代の頃を歌った曲ですよね。その頃のスガさんと今とで変わらないものってどういうところにありますか?

スガ:どうだろう、難しい質問ですね……。でも、いつも思うんだけど、今も昔も相変わらず目が悪いんですよ。だから、その頃の記憶もそうだし、最近のこともそうだけど、あんまり景色で覚えていないんですよね。明確な情景描写で覚えていなくて、匂いとか比喩とか、そういうもので視力を補おうとしている。だから歌詞の世界がこうなるんですよ。これは漫画家の羽海野チカさんに言われたんですけど、「スガさんの歌詞は、見てない。いつも星が出てくるけど、星を見ていることがほとんどない」って言うんです。「それは目が悪いからだ」って言われて、そういえば俺の歌詞って全部そうだなって思って。昔から目が悪いから、あんまり視覚に頼れないんですよね。

ーーだから嗅覚と触覚が強くなる。

スガ:そう。いろんな他の感性を使ってなんとかそれを表現しようとしている。昔からそれは変わっていないと思います。だから「ふるえる手」でも、普通だったら父親の表情を書くべきなんだろうけど、自分にはぼんやりとしか見えてないんですよ。どんな顔してたかとか、全然覚えていないんですね。目の前にある手しか見えていない。その手しか覚えていなくて、それを頼りに書く。だからこんなになるんですよね。

ーーなるほど。ほかの曲もそうですよね。

スガ:「青春のホルマリン漬け」もそう。実際に目に見えているものはある程度しか出てこない。〈カビ臭いシーツ〉みたいな匂いとか、女の言った言葉とか、で、そこをなんとか表現しようとしている。それはやっぱり目が悪いからなんですよね。

ーー「オバケエントツ」は小さい頃に暮らしていた街が舞台になっています。

スガ:これも、僕が生まれた頃には「オバケエントツ」はもうないので、見ていないんですよ。だから煙を吸い込んでいる感じを書いている。見えているものの情報が少ないんですよね。

ーーそういう、ご自分の感性、感覚と、ファンク・ミュージックというルーツは繋がっていたり、結びついていたりするんですか?

スガ:いや、全然結びついてないです。そもそも日本語でファンク・ミュージックをやるっていうこと自体に無理があるので、そこはもう自分では全く切り離して考えているし。やっぱりファンクって、繰り返しの音楽だし、普通の精神状態で聴いたらただ退屈なもんだと思うんですよ。でも当時はみんなハッパやってたりドラッグやってる人もいたからこそ開花したわけで。でも僕らは別にドラッグやるわけじゃないから、それをそのままやったところでやっぱり退屈だよねってことになっちゃう。だからファンクをそのままやろうとも思っていないし、そこは一つのルーツとして持っているだけで、あんまりこだわっているわけでもないんですよね。

ーー確かにこのインタビューでも最初に語った通り、スガさんがJ-POPの世界にファンクを根付かせたいという信念をずっと持ち続けているアーティストだったとしたら、このアルバムに辿り着かないですよね。

スガ:この道を選んでないですよね。それは10周年で終わったんですよ、僕の中で。ファンクとポップ・ミュージックとの融合みたいなものは『PARADE』の時に終わっていた。その次の目的が実はなかったっていう感じなんですよね。

ーーでも、改めてその次の目的を探す探求を経て、自分の目的ってなんだったんだろうと思います?

スガ:うーん、なんでしょうね。別にそんな、目的ってほどのものはないですけどね。でもやっぱり今回のアルバムに関しては、いつも言ってるんですけど、音楽を聴く人にとっても、やる自分にとっても、ドキドキしたいんですよね。一貫してそう。しかも、そういう音楽のドキドキ感って、今の時代、どんどんなくなってきているような気がするんですよ。いろんな原因があるんだろうけど、そこは何事にも代えられないものだから、自分としてはそこだけは譲れない。そういう気持ちは今でもあります。目標があるとしたら、そういう感じだと思います。

ーーこれはアルバムの中身だけじゃなく、スガさんが独立してからのここ6年の活動も、音楽にドキドキするってどういうことなのかを一つ一つ問い直していったような期間だったと思うんです。改めて、このアルバムが出るタイミングで振り返って、どういう6年間だったという感じがしますか?

スガ:そうだなあ、たとえばメッセージソングを書いたとしても、そこに生々しさとか説得力みたいなものがなかったら全然ダメだと思うんですよ。自分に説得力がなかったら、メッセージがメッセージじゃなくなっちゃう。辞める直前の頃は、それがジレンマだったんです。毎回毎回、本当に血肉を削って曲を書いて、詩を書いてるのに、リリースしたらなんとなくテレビに出て、ラジオに出て、雑誌をやって、という感じになってしまう。「スガシカオ、新譜出たんだ。へぇ、いいじゃん。じゃあ次」みたいに受け止められているだろうなと思っていたし。そこに何かを込めたとしても、みんなにそれがリアルなメッセージとして届いていないんだろうなって思ってたんですね。思い過ごしなのかもしれないけど。とにかくそこをリセットしたかったんです。

――なるほど。

スガ:前にどこかのコラムで柴さんが「スガシカオは自分をリセットしたかったんだろう、過去も全てゼロに戻して、そこから始めたかったんだろう」って書いていたと思うんだけど、まさにその通りで。その自分のキャリアとか、これまでやってきたこととかを全部捨てて、崖っ淵に立たない限りにはメッセージが伝わらないと思ったんですよ。例えば「アストライド」を歌っても「いや、そりゃお前は成功者だからいいだろうけどよ」って思われちゃうだろうなって。だけど全部捨てて、本当にもう引退するかもしれない、テレビも雑誌もラジオも出なくなって、地下活動に入ってインディーズになって一人でやってるらしい、もう終わりだね、みたいなところまでいってでも伝えなきゃいけないメッセージがあるんだってことを思ったんです。メッセージって簡単なもんじゃないし、自分の手首を切らないと認めてくれないだろうなって。だから俺は自ら崖っ淵に行ったんですよ。

――実際、その頃から一緒に歳を重ねているファンだけでなく、若い世代にもスガシカオさんの音楽が届くようになっていったと思います。

スガ:そうしたらそこで生々しく説得力のあるメッセージを歌っても、みんなちゃんとメッセージとして受け取ってくれるし、「アストライド」みたいな曲でも、会場で聴いて泣いている人もいる。やっぱり全部を捨てたからこそ聴いてもらえる曲なんだろうなって、すごく思ったし。ちゃんとメッセージをリアルに説得力のある形で聴いてほしいためだったんですよね。当時僕はインタビューも何もしていなかったんで、そこをズバリ見抜かれたのは柴さんだけだったんですけどね。やべえな、インタビューであとから話そうと思ったこと全部言われたな、みたいな(笑)。

ーーそれが仕事なので嬉しい限りです(笑)。でも、間違いなく6年前の選択は決死の賭けであったわけですね。

スガ:実際、イチかバチかでやめたつもりだったんで。そのまま浮上できないなら、それはそれで仕方ないなと思っていて、だからあんまり過去に未練もなかった。だからあまり躊躇せずにそこには飛び込めたんですよね。

ーー実際にレーベルと事務所を離れた時にはどんな感じでしたか?

スガ:やっぱり、こんなに俺個人の力ってないんだって思い知らされましたよね。もうちょっと反響あるだろうと思ってたけど、ライブ1本打つのにも全然チケットが出ないし、ラジオとかのブッキングもできないし。それだけいろんな人の力で自分が成り立っていたんだなっていうのを思い知らされましたね。

ーー今回はアルバムのプロモーションとか広めていく手段も、かなりラジカルな手段をとっていると思うんです。そのあたりはどうでしょう?

スガ:僕はずっと前から、活動の基盤をずっとインターネットの世界に置きたかったんですね。SNSだったりメールマガジンだったり、そこでファンとの距離を完結できるところに行きたかったんですよ。で、ネットの世界は革新的なことをすぐ出来るし、アイディア一発ですぐ広めてくれるし、宣伝費がないからできませんとも言われない。なかなかそれができなかったんですけど、辞めたら今度はそこしかなくなっちゃって。だから今でも根幹はそこにあるんです。プロモーションでもなんでも、根幹はネットの世界にあって、そこでファンの人たちと繋がっていて、新しいファンもそこから広がってくる。それをもっと広げるためにテレビだったりラジオに出る。そこは以前と変えられたと思っています。

ーー先日は「生ライブ試聴会」というのもありましたよね。ここ十数年の音楽業界的な常識からするとものすごく異例だけれども、実際にやってみたらすごく刺激的だし、スペシャルな体験でした。

スガ:ただね、効率的に利益を生もうと思うとその形じゃないほうがいいんですよ。アルバムが出たあとにツアーをやる方がいい。でも、僕が2011年に辞めた時に「今自分に持てる最大の武器はなんだろう」って考えた時、利益を追求しなくていいことだって思ったんですね。赤字が出たって自分で背負えばいいだけだし、それよりもドキドキすることを先に選ぼうと思った。それは今に至るまで変わってないですね。やっぱり、アルバムのプロモーションをしてからツアーをやるほうが客入りもいいし、規模も大きくとれるんです。でも、それよりももっとみんなにドキドキしてもらうことを選ぼう、ということをできる立場なので、迷わずそれを選べる。だって、聴いたこともない曲を後ろに歌詞が出て、生演奏で歌われたら、そらドキドキしますよね。

ーーそうそう。背景に映像で歌詞が出るっていうのも、ポイントだったと思うんです。というのも、今の時代、ファンがアーティストの新曲と出会うタイミングって、YouTubeがどんどん多くなってきていると思っていて。しかもリリックビデオも多い。そう考えると、あの「生ライブ試聴会」は、最上級のリリックビデオだったと思うんです。

スガ:たしかに。一番リッチなYouTubeかもしれないよね(笑)。僕もそう思います。

ーー音楽の作り方も、その届け方も、全てにおいてドキドキできるものの選択肢をとったということですよね。そういうところが、このアルバムが集大成であるという意味合いにちゃんと結びついたんじゃないかと思います。

スガ:そうですね。余分な雑念がなくいろんなことを選べる立場になれたからこそ、このアルバムになった。うん、集大成だと思います。

(取材・文=柴 那典)

■リリース情報
『THE LAST』
発売:1月20日
【完全生産限定盤】¥8,000(税抜)
(「CD(通常盤)+SPECIAL CD「THE BEST」+SPECIAL DVD「ぶらり途中下車しない旅 ~伊豆急行 語らひ編~」+ベビー“ガス カシオ”ぬいぐるみ」特製BOX入り)

【初回限定盤】¥3,800(税抜)
(CD(通常盤)+SPECIAL CD「THE BEST」)

【通常盤】¥3,000(税抜)
(CD)
※ブックレットには作家・村上春樹によるライナーノート掲載
収録曲
01. ふるえる手
02. 大晦日の宇宙船
03. あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ
04. 海賊と黒い海
05. おれ、やっぱ月に帰るわ
06. ごめんねセンチメンタル
07. 青春のホルマリン漬け
08. オバケエントツ
09. 愛と幻想のレスポール
10. 真夜中の虹
11. アストライド (Album Mix) ※ソニー損保 CMソング

SPECIAL CD『THE BEST』<完全生産限定盤・初回限定盤のみ>
01.Re:you
02.傷口
03.Festival
04.アイタイ
05.したくてたまらない
06.赤い実
07.赤い実 remix
08.情熱と人生の間
09.航空灯
10.LIFE
11.モノラルセカイ
※全曲リマスタリング

【アルバム『THE LAST』特設サイト】
URL:http://www.jvcmusic.co.jp/sugashikao/

■GYAO!
スガ シカオ 「真夜中の虹」MUSIC VIDEO 【FULL】
http://gyao.yahoo.co.jp/player/00091/v10086/v0994000000000543123/
スガ シカオ×CLAMP 「あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ」MUSIC VIDEO 【FULL】
http://gyao.yahoo.co.jp/player/00091/v10086/v0994000000000543119/

■配信情報
「真夜中の虹」
iTunes Sore、レコチョク、moraほか主要配信サイトで配信中
・iTunes Store:https://itunes.apple.com/jp/album/id1066735183?app=itunes&ls=1
・レコチョク:http://recochoku.jp/song/S1002569458/
・mora:http://mora.jp/package/43000005/VE3WA-17563/

「あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ」
iTunes Sore、レコチョク、moraほか主要配信サイトで配信中
・iTunes Store: https://itunes.apple.com/jp/album/id1062506939?app=itunes&ls=1
・レコチョク:http://recochoku.jp/song/S1002485254/
・mora:http://mora.jp/package/43000005/VE3WA-17572/

■ニューアルバム『THE LAST』 iTunes Storeにてプレオーダー(予約注文)実施中
https://itunes.apple.com/jp/album/id1066735183?app=itunes&ls=1

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