MACOの歌声は複数のクラスターを繋ぐ? 1stアルバムの“射程の広さ”を分析

 そしてそんなボーカルを支えるのが、美しいメロディラインにストリングスやホーンが流麗に絡んでいく「ゴージャスなJ-POPサウンド」。ドラマチックに響くことを絶対正義とするこの手の音は、90年代初頭から20年以上の間ずっとチャートの真ん中で(ときに心無い「音楽好き」から揶揄を受けながらも)培われてきたものでもある。そんなマナーに則った「Kiss」の大サビの展開や「SHINY STAR」のBメロからサビの流れはこれぞJ-POP!で素晴らしいし、いきものがかり「気まぐれロマンティック」的な楽しさがある「君の背中」、R&Bの要素を日本流に換骨奪胎した「アタシノスキナヒト」も気が利いている。

 わかりやすい言葉、基礎点の高いボーカル、そして美しいメロディと派手でキャッチーなサウンド。「狭義の音楽好きに忌避されながらも確実にチャートで支持される音」として高度に完成されているのがこの『First Kiss』である。こういう作品を「マーケティング」と切って捨てる向きもありそうだが、そうやって処理するにはもったいない面白いアルバムだなと思った。彼女の活動を振り返ってみても、「ポスト西野カナ」的なポジションをとりつつも(自身で作詞している部分は重なるし、アートワークの雰囲気にも影響が見られる)、一方ではtofubeatsとの交流もあるなどとても射程が広い。複数の、そして両極端な場所にあるクラスターをつなぐ存在としての活躍を今後も期待したい。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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