T・スウィフトらの洋楽カバー曲で人気獲得 MACOのYouTubeプロモ戦略を読む
iTunesチャートでリリースから1ヶ月以上の間1位をキープしてきた松たか子の「レット・イット・ゴー」、その牙城を脅かしそうなミュージシャンが現れた。彼女の名はMACO。テラスハウスのオープニング曲として知られるテイラー・スウィフトの「私たちは絶対にヨリを戻したりしない〜We Are Never Ever Getting Back Together」を日本語でカバーした彼女はメジャーデビュー曲にも関わらず5月6日付のiTunesデイリーチャートで2位を獲得し注目を集めている。
素性の多くがベールに包まれた彼女。ホームページで明らかにされているプロフィールによると、1991年に北海道の函館市で生まれたMACOは17歳のころから作詞・作曲をはじめ、地元を拠点にミュージシャンとしての活動をスタート。その歌声とソングライティング能力が徐々に話題となり、昨年Matt Cabやtofubeatsらが所属する音楽プロダクション「onepeace」と契約。YouTubeへ投稿したテイラー・スウィフトやケイティ・ペリー、マイリー・サイラス、アヴリル・ラヴィーン、アリアナ・グランデなどの洋楽ヒット曲を日本語アレンジして歌った動画が話題となり、その再生回数はわずか5ヶ月間で600万回を記録。2014年3月にリリースされたm-floのアルバム『FUTURE IS NOW』ではソングライターとして「My Way / m-flo + ayumi hamasaki」「d.w.m / m-flo + Reina Washio (Flower / E-girls)」を彼らと共作し、彼女自身も客演として「Find A Way」など4曲に参加。4月にはデビュー・アルバム『22』をリリースし、インディーズにも関わらずiTunes総合チャートで1位を獲得した。その後ユニバーサル・ミュージックと契約し、満を持してリリースしたのが今回のシングル『私たちは絶対にヨリを戻したりしない〜We Are Never Ever Getting Back Together(Japanese Ver.)』である。
このようにMACOのメジャーデビューを振り返ってみると、これまでのミュージシャンにはあまり見られなかった緻密な戦略がうかがえる。通常レコード会社が力を入れる新人、いわゆる「押しモノ」ミュージシャンの場合、デビュー前から大々的なプロモーションが展開され、様々な媒体に本人が露出して宣伝を行うものだが、彼女の場合はそのような気配はほとんど感じられない。代わりにMACOがとったのは「口コミ」による拡散、YouTubeやソーシャルメディアを用いたプロモーションである。誰もが一度は耳にしたことのある楽曲のカバーを動画サイトに投稿し、歌唱力やアレンジ能力をアピール。その動画が話題になると、TwitterやFacebookで曲を聴いたリスナーと密にコミュニケーションを図ることで地道にファンを獲得していった。マスメディアでの露出は少ないが、代わりにソーシャルメディアを用いることで彼女を「身近な存在」としてファンは認識。結果、歌だけでなくファッションなども含めた「MACOのファン」がデビュー前から多く生まれ、新人にもかかわらず華々しいデビューを飾ることが出来たのだ。
歌が上手い、楽曲がいいだけでは音楽が売れない時代。これまでの宣伝では「ゴリ押し」と言われ敬遠されるようになった今日において、MACOのようなソーシャルメディア等を用いる(緻密に計算された)「口コミ」プロモーションは主流となっていく可能性が高い。彼女のリリースする楽曲はもちろんだが、その活動と裏で練られた戦略についても今後注視していく必要がありそうだ。
(文=北濱信哉)