結成から33年ーー筋肉少女帯・大槻ケンヂが語る“異能のヴォーカル”の矜持と、バンドの現在地

筋肉少女帯・大槻ケンヂが語るバンドの現在地

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「僕の生まれ育った幼少期の東京って異常だった」

ーーちなみに「大都会のテーマ」と「私だけの十字架」をカバーしたのは?

大槻:これは懐古趣味じゃないんです。昭和40年代、50年代っていう……“S5040”ですね。僕の生まれ育った幼少期の東京の風景っていうのを、昭和回顧をする番組なんかで観ることが多くて。で、いろいろ資料とかを見ているうちに、どうもあの世界は異常だった、どう考えてもおかしいだろうと思うようになって。で、そこから地続きに今があるんだけれども、どうも我々は単に歳をとったというよりも、“S5040”という別の次元から来て今ここにいるんだ、という意識が必要なんじゃないかと。

 我々もまだアラフィフとはいえ、まあ、もうそんなに若くはない、っていう時に、そこでネガティヴな気持ちになるよりも、自分の生まれ育ったあの奇妙な世界からタイムトリップして今ここにいる別世界の人間なんだ、空間移動してきたんだ、というふうに思えば……別に歳をとることなんてなんでもない、と思って。でもそれは、過去現在未来という時系列があっての空間移動なんだ……という、よくわからないSF小説的な、自分なりの発想がありまして。そういうふうにしようかなと思って、あの曲を入れたんですけども。

ーー昭和40年代・50年代は異常だったというのは、どんなところでそう思われるわけですか?

大槻:まずビジュアル。僕は東京の中野だから、西武新宿線が近くて、新宿で電車を下りるとすぐ歌舞伎町だったんですけど。もう電車を下りた瞬間に駅のホームから見えるのが、旧新宿東急の裏の洋ピン映画館の『セックス魔』なんていうでかい看板で。で、街へ出るとまだヒッピーが全然いて、で……言葉を選んでホームレスなんて言えないです、乞食がいっぱいいて。酔っぱらいがいて、ヤクザが肩で風切って、シメサバみたいなスーツで歩いてて(笑)。
もう街中、ポルノ映画とオカルト映画とパニック映画のポスターだらけなんですよ。サメが人を食ってて血まみれのポスターとか、女の人がモロパイ出して『犯す! 犯して! 犯されて! 』っていう3本立てのポスターとか。あと、高田馬場のスズヤって質屋の屋上で、貴ノ花とマリリン・モンローの像が向かい合って「見合って見合って」の形でくるくる回ってたんですよ(笑)。もう頭がおかしいんですよ。子供心に「大人、おかしい!」って思ってたんです。でもそれがどんどんマイルドになって、今は新宿コマ劇場もなくなって、もう映画の看板もないですからね。新宿はそういう街だったし、それが僕の東京だったんです。原風景です。

 で、学校が終わって家に帰ってテレビをつけると、『大都会』の再放送をやってるんです。『大都会 戦いの日々』っていうシリーズのパート1で、渡哲也主演で、そのテーマ曲がこのアルバムに入ってる「大都会のテーマ」なんだけど、非常に暗あい、後味の悪いドラマなんですね。それが始まる前に、『特捜最前線』っていう刑事ドラマの再放送があって、最後に「私だけの十字架」っていう、誰もが自殺したくなる暗あい曲が流れて(笑)。その2本を観終わると日が暮れてくるんですよ。それが俺の中学時代だったんです。帰宅部だったし。あの感覚……異次元、魔都・東京、僕の育った“S5040”、そして過去・現在・未来っていうものをテーマにするんだったらば、「大都会のテーマ」のカバーを入れたいなと思って。「私だけの十字架」は……「私だけの十字架」と、「恋人よ逃げよう、世界は壊れたオモチャだから」っていう、昔僕が山瀬まみさんに書いた曲のどっちをカバーする?ってメンバーにメールしたら、みんなが「私だけの十字架」をやりたい、って言いました。

「再結成以降の筋肉少女帯は、『西部警察』だったと思うのね」

大槻:筋少はかつてはアングラ・パンクだったけれども、再結成して「ゴージャス・エンタテインメント・ハードロック」路線になって、それで人気を得た。だけれども、さっき言ったように、アングラ・ナゴム・パンクだった頃の筋少の雰囲気も出したいなと思って、内田くんの曲を3曲選んだんですけども……こじつけるわけじゃないんですけれども、再結成以降の筋肉少女帯は、『西部警察』だったと思うのね。赤と黒のすごいスカイラインに乗って、最後に渡哲也がライフルをバーンと撃って終わるという。「ゴージャスエンタテインメントハードアクション」ですよ。

 で、『西部警察』の前に『大都会2』っていうのがあって、それはもうちょっとマイルドな、「アクションハードサスペンス」だったんですよ。松田優作が出てて。で、その前の『大都会』っていうのが、本当にアンダーグラウンド・パンクだったんです。観るとほんとにみんなイヤな気持ちになるような。「大人、おかしいよ」と思ったんだけど、すごい不思議な魅力があって。だから、再結成以降『西部警察』路線になった筋肉少女帯が、『大都会 戦いの日々』の頃にちょっと戻ったような感じかなあ。

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ーーこのアルバムの『おまけのいちにち(闘いの日々)』というタイトル、少し前に出たエッセイ集『おまけのいちにち(その連続)』とつながっていますよね。

大槻:ええ。その、若さみなぎる時代を過ぎると、人生ってもしかしたらおまけの一日、その連続かもしれないと思うことがあるんですけれども。でも、そのおまけの一日が意外にハードだ、闘いの日々だっていう意味合いで、付けましたね。

ーーあのエッセイ集、「これが最後のエッセイ集」と銘打っておられましたよね。で、このアルバムのジャケットはーー。

大槻:はい、かつて僕が書いた『新興宗教オモイデ教』という小説の表紙絵なんですけど。こういうふうに、自分の小説や音楽をミクスチャーさせることが多いんですね。これはね、僕が永井豪先生のファンであることと、角川映画世代だったからだと思うんですね。まずその、自分の書いた本と自分のバンドが出すアルバムのタイトルが一部同じっていうのは、80年代の角川映画がやったメディアミックスです。それと、永井豪先生は、たとえば『バイオレンス・ジャック』のキャラが『デビルマン』に出てきたりとか、その逆があったりとか、自分の中のキャラクターや世界観をクロスオーバーさせるんですよね。手塚治虫先生のランプってキャラがどのマンガにも出てくる、あそこから来てるんだと思うんですけど。僕もそのオールスター・キャスト制が好きで、わざと試みてるんですよね。

 ちなみに『おまけのいちにち』っていうのは……僕は映画少年だったんで、ぴあのフィルム・フェスティバルとかも観に行っていて、すっかり忘れてたんだけど、その中に『おまけのいちにち』っていう映画があったんだよね。しかもそれを撮ったのが、僕と多少面識のある人……加藤賢崇さんと東京タワーズをやっていた岸野雄一さんが撮った映画です。僕はそれを観てるかもしれないんだけど、さすがに昔のことなので記憶がなくて。だから、もしかしたら無意識のうちに『おまけのいちにち』という言葉を拝借してしまったかもしれないんですね。

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