中森明菜、通算50枚目のシングルに込めた思いとは? 小野島大が“現在のモチベーション”を読み解く

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 中森明菜のニュー・シングル『unfixable c/w 雨月』がリリースされた。今年1月にリリースされた『Rojo -Tierra- c/w La Vida』以来8ヶ月ぶり、通算50枚目のシングルである。昨年夏にオールタイムベスト・アルバム2枚をリリースし35万枚を超える大ヒットを記録、さらに年末の紅白歌合戦にて4年5ヶ月ぶりに公の場所に姿を現し「Rojo -Tierra-」を歌うなど、明菜復活を予感させる華やかな話題に包まれていた前作に対して、今回は(本稿執筆時点では)本人のプロモーション稼働もなく、音源の公開も直前まで抑えられたこともあり、ずいぶん地味なリリースになった。しかし中森が1年に2枚のシングルをリリースするのは、2004年(「赤い花」「初めて出逢った日のように」)以来11年ぶりのことなのだ。カヴァー・アルバム『歌姫4 -My Eggs Benedict-』(2015年1月発売)とあわせれば、2015年の中森明菜は、近年になく動いた年だった、と言えないだろうか。

 今年1月に放映された『SONGSスペシャル 中森明菜 歌姫復活』では、第一線復帰への意欲を語り、2009年の『DIVA』以来のオリジナル・アルバムも制作中であることを明かし、非常に前向きな状態であることがうかがえたが、残念ながらニュー・アルバムの予定はいまだアナウンスされていない。海外でレコーディング継続中という中森の近況もほとんど伝えられていない。そんななか、いささか唐突にリリースされたのが『unfixable c/w 雨月』というわけだ。

 とはいえ通算50作目、しかも7月13日に50歳になったばかりという節目のリリースである。そこには中森なりの深い思いが込められているはずだ。
 「unfixable」はかねてから伝えられていた通り全編英語詞による楽曲。海外作家4人(ノルウエーのゴシック・ロック・バンド、シベールの元メンバーなど)の共作によるものだ。中森の英語詞作品といえば、1987年『Cross My Palm』が全曲NYレコーディング、全曲が海外の作家による英語詞作品だった。中森明菜22歳。出すシングルをすべてチャート1位に送り込み、音楽的のもセールス面でも、名実ともに絶頂期にあった時期の作品だ。この時期、中森は『不思議』『CRIMSON』そして本作と、コンセプトも楽曲も、そして歌唱もシングルではできない実験的・意欲的な試みをアルバムで展開していた。少女時代から洋楽リスナーだったという中森の指向がデビュー5年目にして形になった作品と言えるだろう。その後も『Femme Fatale』(1988)、そして前作『DIVA』と、折りに触れ海外作家との積極的なコラボレーションをはかり、中森の洋楽指向はそのつど形になってきた。そう考えれば全編英語詞の「unfixable」のリリースはなんら唐突ではない。『Diva』以降続くコンテンポラリーR&B指向をダークでメランコリックでゴシックな曲調に生かした佳曲である。ここにエミネムばりのカッティング・エッジなラップでもフィーチュアすれば(全体の曲調はエミネムの名曲「スタン」を思わせる)、アメリカのラジオでヘヴィ・ローテーションされても驚かない。

 だが、これはアルバム中の1曲ではない。シングル曲である。歌詞が英語であることもそうだし、音楽的にも、少なくとも日本のマーケットを第一に考えた曲調とは考えにくい。資料によれば、数曲の候補がある中で、中森の強いこだわりで最終的に「unfixable」に決まったという。求められる曲よりは自分の歌いたい曲を。それが現在の中森のモチベーションであり、そのアーティストとしての姿勢にはぶれがない。

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