兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第5回
海外と日本のバンドの「ドラムの違い」とは? 元アマチュアドラマー兵庫慎司が考える
ざっくり言うと、要は洋楽の(ロキノン系の)バンドのドラムも、日本の(ロキノン系の)バンドのドラムも、その大半が、あんまりよくはなかった、と僕は思っているわけです。
それがこの20余年で、こんなに差がついてしまったのはなぜなのか。
90年代中盤~後半の、ダンス・ミュージックのポップス化のせいではないか。という仮説はどうだろう。
ハウスとかテクノ等の、いわゆるエレクトリック系のダンス・ミュージックが、そのあたりの時期から急速に一般化した。UNDERWORLDやCHEMICAL BROTHERS、PRODIGYやFATBOY SLIMなどなど。なお、ヒップホップやR&B系は、それ以前から一般化している。音楽ユーザーの耳がそれに慣れて、普通のロック・バンドのリズムでは物足りなくなる、だからそれらに対抗できるくらい、生のリズムのレベルをあげていくしかない。
そういえば、ミクスチャー・ロックやヘヴィ・ロック、いわゆるラウド系的なジャンルはそれ以前からあったが、すばらしいバンドがいくつも台頭して、本格的に市民権を獲得するようになったのも、この時期からだったかもしれない。
RAGE AGAINST MACHINEとかKORNくらいの音圧でぶちかましてくれないと、ダンス・ミュージック勢のリズムに太刀打ちできない。そしてそれはやがてラウド系だけでなく、ギター・バンド系にも、それ以外にも伝播していった、だから総じてロック・バンドのリズムが強化されていった──という。
ドラムだけでなく、それまでは一部のベーシストしか使っていなかったスラップ奏法(昔でいうチョッパー奏法)がさまざまなジャンルに広がっていったのも、それと同じ理由なのかもしれない。
という変化が、日本にはあまり訪れなかった、だから英米のロック・バンドのドラムが進化していく(そして進化できないドラマーは振り落とされる)のに対し、それがなされなかった──ということなのかもしれない。
という意味では、実は僕は、今年のフジ・ロックに期待している。
先ほど僕はONE OK ROCKを例に出して「今の日本の新しいバンドは本当によくなっている」と書いたが、フジってそういう日本の新しいバンドはあまり出演させないフェスだったからだ。それが今年から大きく方針を変えたラインナップに変わった。去年までよりも「やっぱ外人のドラムすげえなあ、それに引き換え……」と感じることが減るのではないか、と思うのだ。