集中連載「新作『葡萄』を語る、桑田佳祐の言葉」第1回
サザン桑田佳祐が原由子への思いを歌った理由とは? 予約完売続出の新アルバム生産限定盤、セルフライナーノーツ『葡萄白書』から読み解く
サザンオールスターズの10年ぶりとなるニューアルバム『葡萄』のリリース日が迫ってきた。全16曲、約72分にわたる本作はまず、圧倒的な“言葉の力”を感じさせる一枚だ。ロマンチックな恋愛ソングから現代社会へのメッセージを持つナンバーまで、歌詞のテーマは幅広いが、どの楽曲からも社会や人生に対する桑田佳祐の深い洞察が伝わってくる。そして、豊かな経験に裏打ちされた言葉の数々が、傑作『キラーストリート』(2005年)をしのぐ音楽的充実を見せるアンサンブルに乗る時、濃密でありながらもポップ、美しくも切ない「歌」が生まれるのだ。
なお、本作の完全生産限定盤には、桑田佳祐自身によるセルフライナーノーツを収めたオフィシャルブック『葡萄白書』が同封されている。そこでは各曲の制作経緯からそれぞれの歌詞に込めた思いまでが詳細に綴られ、重層的な大作『葡萄』をより深く味わうためのガイド役を果たすことになりそうだ。ただし、この『葡萄白書』、完全生産限定盤への購入予約が殺到しているため、今後入手しにくくなる可能性も出てきている。そこで今回、リアルサウンドではレーベルの許可を得て、『葡萄白書』の一部を引用した短期集中連載を企画。桑田自身の各曲解説を交えながら、『葡萄』と『葡萄白書』のエッセンスを紹介していきたい。
「アロエ」
『葡萄』の冒頭を飾るのは、70年代後期のディスコサウンドを思わせる軽快な四つ打ちナンバー「アロエ」。アルバムの中でも屈指の“お祭りソング”である。
桑田はアルバムにおける「アロエ」の位置づけについてこう綴っている。
「アルバムにはどこかノリというか思い付きで出来たような、アナーキーで、底抜けにお気軽な曲が入っていたほうがいい。そんな持論が私にはある。これはまさにそういう一曲である。」
桑田は同系統の曲として「シュラバ★ラ★バンバSHULABA−LA−BAMBA」(1992年)や「イエローマン〜星の王子様」(1999年)などを挙げているが、確かにライブでの盛り上がりを連想させる、ファンには実に嬉しい楽曲である。そんな中で注目したいのは、「アロエ」が楽しさと同時に、どこかクールな印象をリスナーに与える点だ。それは、ストリングスや鍵盤を交えた緊張感のあるアレンジとコーラス・ワーク、そして「勝負出ろ!」「止まない雨はないさ」とリフレインする歌詞によるところが大きい。
「ディスコ・ミュージックということは『人生色々あるけれど今夜は最高だぜ』といったポジティブな希望を歌いたいはずなのだ。そんな方向性が決まると、ようやく何だか気の利いたことを言う、心優しい遊び人といった、この歌の中のキャラクターが見えてきた。
みんな人生行って来いのお互い様。夜明け前が一番暗い。人生輪廻だしリセット出来るよと、遊び人特有の軽いテンションで、元気のないツレをさらっと励ましている感じである。」
楽曲の中盤には、「悲しい事は 言葉に換え 星を見上げて そっと歌うといいよ」という、リリカルで印象深いフレーズも登場する。楽しさと切なさ、喜びと悲しみが交錯する本曲は、アルバム『葡萄』の重層的なイメージを象徴する楽曲といえるかもしれない。